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36 ビーネの最期

 寓意術の訓練もそこそこにして、気晴らしに街の様子を見に行こうとした時だった。

 魔石板にヨルノンさんからのメッセージが届いていた。


<ソロモンさん、いますぐ来てください。保護していた男が目を覚ましました。療養室で待っています>


 セレマイアの船から命からがら逃げだしてきたビーネのことか。

 彼には聞きたいことが山ほどある。すぐにビーネのもとへ向かおう。





 日当りのいい中庭の近くにビーネを休ませておこうと提案したのは俺だ。

 その方が人間の体にとって一番いいと思ったからだった。


 ヨルノンさんからは「目を覚ました」としか聞いていなかったが、実際に会って様子を見てみると、ビーネの顔は青ざめていてやっとのことで生きながらえているようだった。


「レオナルドのことを話そうか。君が今一番知りたいことだろうから」


 ビーネは仰向けに寝たままで話し始めた。


「私は先代の王の頃から都市計画に携わっていてね。先王のお体が優れなくなってからは、軍を指揮するレオナルドともよく仕事をしていた」


「そのレオナルドっていうのが、セレマイアの実質的な支配者なのか?」


「そうだ。そしてレオナルドに代わってからというもの、それまで以上にセレマイアの街の構造は軍事的な運用を優先するように要求されるようになっていった。それは私が改善してきた部分を邪魔だと言わんばかりに進められていった」


「抵抗しなかったのか?」


「もちろんしたさ。私の力の及ぶ限りではな。しかしレオナルドに逆らえる者はほとんどおらず、私も例外ではなかった。そこで私は、自分の誇りのためにレオナルドの弱みを握って意見を通そうと画策したのだ。これが全ての間違いだったという訳だが……」


 ゴホッゴホッとビーネが大きく咳き込んだ。ビーネが口に当てた手には血が付いていた。


「無理しなくていい。回復を待ってからでもいいだろう。その時でいいから話を聞かせてくれ」


「私はもう長くはない、そう感じる。投獄されてからは酷く不衛生な環境で過ごしていたからな……話を続けさせてくれ」


「――ああ、分かった。」


「私の部下を1人、レオナルド直属の兵士として仕えさせることに成功した。そして元々所属していた兵士から情報を手に入れ、レオナルドが部下を使った人体実験をしていることを知ったのだ」


「それはどんな実験なんだ? 薬を使って体を強化させたりでもしているのか?」


「魔力を利用して意識を共有させられている。そしてレオナルドからの指示には逆らえない」


「魔力で意識を共有するなんてことができるのか」


「これは驚きましたね。そこまでセレマイアの魔法技術が発展しているとは思いませんでした」


 人間も魔力を研究しているという事は知っていたが、化物を生み出すレベルにまで到達しているなら人間で実験することも自然な流れだろうな。

 あのシーレーンの兵士には意識を共有しているような動きは見られなかったということは、少なくともシーレーンとレオナルドは友好的な関係にはないという事だろうか。


「その事に気付いた時にはもう遅かった。彼は私のことを隠し通そうと努力はしたが、レオナルドの人形と化すのにそう長い時間は必要なかった。そして私は叛逆罪で捕まり、終身刑となっていたところを奇跡の証左に引き渡された」


「そして怪魚エヴィデンスのエサにするために物同然の扱いを受けて運ばれてきたということか」


「レオナルドの人体実験はおそらく、バシリスクと共同で進めているのだろう。バシリスクというのは……グ、ゴホッ!!」


 ビーネがまた血を吐いた。もう残された時間はほとんどないようだ。


「ちょっと待っていてくれ! すぐに戻ってくるから!」


 そういって俺は研究室に魔石板に乗らずに急いで走って戻り、研究室の隅に並べてあった石人形を適当に手に取り、ビーネが臥せている部屋へと急いで戻った。


「あなたの意識をこの石人形に移してみないか? 成功する保証はないが、今すぐに死ぬという事はない」


「もう私には考えている余裕もないようだな……好きにしてくれ」


「ソロモンさん、何をするつもりですか?」


「もし成功すれば、農園ゴーレムが感情を持っているよう見えるように、ビーネの魂をこの人形に移せるかもしれないんです」


「そんなことが可能なんですか! もしかして、それが寓意術ですか?」


「少し違うんですけどね。もう時間がありません。やります」


 ビーネの額と石人形の顔に手を当て、俺が初めて分身を作った時の感覚をできるだけ鮮明に思い出しながら呪文を唱える。


「穢れなき器にその(コン)映せ。無垢なる(ハク)に順応せよ。霊移(たまうつ)しの寓意術!」


 意識が途切れかけているビーネからはそれほど抵抗なく記憶を取り出せた。

 しかし、記憶を俺の中で偶意(タルパ)として精錬する際に、ビーネの過去を追体験する羽目になってしまった。

 代々セレマイアを街づくりに貢献してきた家系に生まれ育った記憶、父の仕事を受け継ぎ住みよい街にしてきた実績、それをレオナルドの政策に踏み荒らされる光景、一番弟子が夢を諦めてレオナルドの下へ潜り込む、投獄され流行り病に侵される、目隠しをされ船に押し込まれすし詰め状態にされて……


「うわああぁあ! やめろ! やめてくれ!!」


 このままでは自我が崩壊してしまう。その恐ろしさに耐え切れず両手を離してしまった。

 さっきまで見ていたはずの夢の内容をすっと忘れてしまうように、ビーネの偶意(タルパ)の原型が崩れていく。

 このままではいけない。今残っている記憶だけでも石人形に移さなくては。


 精神力を振り絞り、石人形の頭に両手を当てる。

 俺は根性で何とかするというのは嫌いだが、最後には根性論しか頼れるものはなかった。

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