33 特訓
防衛戦が終わってからも、街の住人は仕事に各々の仕事に追われていた。
戦死者の葬儀と相続の問題。
怪魚エヴィデンスの解体作業、後始末。
セレマイアに放棄された物のうち、燃やされずに済んだ船の鹵獲などである。
あれからどうなっているか様子を見に行ってみると、兵士として駆り出されたゴーレムたちが今度は戦場となった付近の整備に充てられているのが見えた。
何度も寄せられた人工的な津波によって、荒れ果てた状態になってしまっていたからだろう。
岩壁への被害はほとんどなかったが、そこに設置されていた設備はほとんど破壊されていた。
船の残骸や積載物、そしてセレマイア兵士と彼女らが連れてきていた囚人の死体も多く打ち上げられていて、これらは迅速に処理される必要があるからだろうか多くのゴーレムが割り振られていた。
この後処理の指揮をとっているイシュー様が溜め息をつく。
「戦争とは違うけれど、こうやってゴーレムを操作するのも頭が疲れるわ。ねえソロモン、この子たちの知能も強化してある程度勝手に働くようにはできないの?」
「既に造られてしまったものは後からはどうにもできません。分解して造り直すなら別ですが、流石にこの数は無理があると思います」
「そう、まあいいわ。ヨルノンに聞いたら、知恵の塔が情報を分析しているところだから、それさえ終われば私も楽できるかもしれないって言ってたし。思い通りに動く手下もそれはそれで使い勝手いいから」
白黒の石を齧りながら淡々と話す。
この作業だけでもかなり魔力を消費するようだ。
「ところで、このゴーレムたちは作業が終わるとどこに行くんですか?」
「うーん、次の戦いまでは休眠させようと思っているけれど、新しい自立型のゴーレムが使える子たちならお役御免ね。別の素材のために解体しちゃうかも」
ゴーレムに感情はないが、なんとなく可哀想だと思ってしまった。
しかし、解体するのにもそれなりの労力がかかりそうだ。
いや、ゴーレムにゴーレムを解体させる等すれば案外楽なんだろうか。
疑問には思ったが、早朝から哀愁漂う内容を聞くと気分が沈んでしまうから詳しくは聞かないでおこう。
「そろそろ俺は行きます」
「何か研究するんだったっけ? 頑張ってね」
「ええ、ゴーレムの性能向上にも役立てられればと思っています」
◇
ヨルノンさんに許可をもらって、研究室と昔使われていたという地下牢を貸してもらった。
防衛線では俺の頭の中にある悪魔と月のタロットの寓画と目の前の現実をリンクさせて、呪いともいうべき不思議な現象を引き起こしたが、これからも都合よく呪いを発生させる状況を作り出せるとは限らない。
そこで、まずは身の回りにあるものからアレゴリー力とも言うべき力を素早く引き出せるように練習しておく必要があると考えた。
つまり当面の俺の課題は、寓意術に利用できそうなものをその場で用意する能力、物質からアレゴリー力を瞬時に引き出してコントロールする能力、この2つを身に付けることだ。
とりあえず城内で訓練に使えそうなものを探してみた。
転生に失敗したと思しき石人形、どの扉に使うのか分からない古びたいくつかの鍵、研究室に置かれていた天秤を見つけた。
石人形にはどんなアレゴリーがあるのか考えを巡らす。
この石人形は転生したばかりの俺に似ている。
なら俺の分身だと考えることはできないだろうか。
例えるなら、自分の頭の中にある別の自分だ。
悩んでいる主人公の両肩あたりに善行を促す天使と、悪行や楽な行動へとそそのかす悪魔が、主人公を説得したり時には悪魔と天使が喧嘩をしてしまうという漫画の表現があるが、そこで登場する天使と悪魔が頭の中にある別の自分にイメージとしては分かりやすいか。
それに技術が向上して上手くこの石人形に意識を芽生えさせられたなら、イシュー様がゴーレムを扱うように雑用を任せたりできて便利そうだ。
さっそく力を引き出せるか試してみよう。
まずは頭の中でこの人形が勝手に話しかけてくれるようになるところから始めよう。
「魂の牢獄から解放し、俺の思考の一角を貸し与えてやろう」
石人形に手をかざしながら、石人形が想像の中で自由に動き回る姿を頭の中に必死に落とし込もうとする。
しかし、何度やっても頭の中で石人形が語り掛けてくることはなかった。
いきなりこんな便利そうな技に挑戦したのは失敗だったか。
それに、冷静に考えると頭の中に別の人格を植え付けるというのは危険じゃないだろうか。
成功しないで良かったと思うべきだろうか。
簡単な技からでもいいから習得していこう。
次に、集めてきた使われていなさそうな古い鍵を手に取る。
これはイメージが簡単だ。鍵の使い道は限られている。
鍵穴がある箇所にアレゴリー力を押し込めば、どんな形状の鍵穴でも開けられると予想してみた。
知恵の塔の部屋の扉には鍵が付いている。
これを開けられるか試してみよう。
「与えられた役割をその最期の時まで全うせよ。開錠の寓意術、発動」
右手で鍵の山をかざし、左手で鍵穴に見えない力を誘導するようなしぐさをとる。
すると、鍵の山から黄色い光が鍵穴へと集まっていくのが確認できた。
そして光が集まる速度が遅くなったと思っていたら、ガチャリと音がして扉がひとりでに開いた。
よし、とりあえず開錠の寓意術を発動させることには成功したぞ。
そしてもう1つ分かったことがあった。
集めた鍵のいくつかがひび割れたり折れたりして破損してしまい、使えなくなってしまっていた。
どうやら、物体から寓意を無理に引き出そうとすると、ある時点を境にその役割を果たせない状態に変化してしまうようだ。
それから、俺は城中の扉で開錠の寓意術を試してみた。
そして鍵さえ消費すればどんな扉でも開けられるようになっていた。
「開錠の寓意術はこのくらいでいいか」
何時間も練習していたので流石に疲れてしまった。
研究室の床に寝転がって休む。
ゴーレムたちに助けてもらえたならもう少し効率よく訓練できるのだが。
寓意術研究のために活動するゴーレムたちの名前はもう決めてある。
今までの名付けの法則からは外れてしまうが、財宝を探す手伝いをしてくれるという寓意術研究にはぴったりの悪魔の名前を借りるつもりだ。
セーレとキマリス。彼らには俺がこの世界から力を引き出すための手伝いをしてもらう。
しかしイシュー様は現在、後処理で忙しくてゴーレムを造っている余裕などない。
もちろん、俺にゴーレムを造る技術はない。
ゴーレムを造ってもらうまでは、ゴーレムの力を借りずに俺の力だけで特訓をしなければならない。
とりあえず鍵からは力を引き出せるようになったから、天秤も練習してみよう。
「天秤か。これなら俺にもできそうだぞ。俺にもちょっとやらせてくれよ」
突然、石人形が俺に向かって話しかけてきた。




