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32 補助世界

 戦争に直接関係すること以外で俺が気になっていることがあった。

 俺が新たに得た能力、寓意術のことである。


 他の魔物は俺が使った能力を見て「呪術師ソロモン」とか「月光の使者ソロモン」など好き勝手に呼び始めたが、シーレーンの発言からすると寓意術は魔法とは少し異なる力かもしれない。

 怪魚がこの寓意術にも耐性を持っていたなら戦況が大きく変わることもなかっただろう。


 それに、またあの不思議な場所で魔女に会うことになるとは思わなかった。

 ヨルノンさんとそのことについて話をする。


「ソロモンさんから聞いた話から、ソロモンさんの魂にひとまとめにされた情報の集合体が見せる夢のようなものだと私は考えていました。ですが、知恵の塔も関与していない力だとすれば、転生の際に別次元の法則に影響されてしまったのかもしれませんね」


「あの不思議な空間は俺の頭の中のできごとじゃなくて、転生する時に実際に見ていた別次元……」


「その可能性も考えられます。宗教観についてお話ししましたね? それに関係するのですが、実は私たちがいるこの世界より下位の世界があって、この世界こそが次元上昇を経て創られた最も新しい世界だという説があります」


「その下位の世界って俺が前にいた世界のことですか? 確かに魔物も魔法はありませんけど……」


 魔法ではない、科学技術が進歩していて発展している世界だ。

 そうは説明されても、少なくともこの街よりは文明が進んでいるので、俺の感覚では下位と認識されるのは納得しづらかった。


「ええ、なぜ基底世界に魔物がいないかは私にも分かりません。ですがこの世界には存在していて、それが世界に新しく追加された要素であることは明確です。そしてそのような要素を新世界に規定するための空間があるのではないかと思うのです」


「どういうことですか?」


「ソロモンさんが見た光景には様々な記録媒体が存在していたのですよね? それらは基底世界で積み上げられてきた世界の記憶とも表現できます。その記憶を基にして創り直されたのがこの世界なのではないかということです」


「俺がいた世界の人々が積み上げてきた世界の記憶……」


 確かに、大規模な図書館や博物館は、人類の知恵が集約された場所のイメージにぴったり合う。

 これに似た話をどこかで聞いたことがある。

 アカシックレコードという、世界のあらゆるできごとが記録される場所があるというものだ。


「神性な存在が新世界を構築するために用いる空間を補助世界と呼ぶことにします。魔法や魔物を規定した補助世界とソロモンさんが見た空間が別の補助世界だとすると、怪魚が抵抗できなかったということと辻褄が合います」


 セレマイアが強気で奇襲を仕掛けて来たのも、怪魚の力によほど自信があったからなのだろう。

 魔法に対して耐性があるというのは、この世界では俺が想像している以上に大きな価値があるようだ。


「寓意術でしたか。その未解明な呪力を研究して世界の構造を明らかにしていくことが、魔物と人間との争いを根本的な部分で解決する手段にもなるかもしれません。知恵活と並行して寓意術研究も進めていきましょう」


「そのつもりです。その仕事を手伝ってもらうためのゴーレムも考え始めています」


「やる気満々ですね♪」


「そこでお願いなんですが、研究室とその他に広い部屋を貸してもらえませんか? 寓意術の研究には様々な調度品を集める必要があるんです」


「もうそんなことまで分かっているんですか?」


「俺も不思議に思います。なんだか、脳みそに直接情報を書き込まれたというか、今まで忘れていたことを思い出すような、俺にとっての寓意術はそんな感覚なんです」


「私も寓意術を身に付けたいですね。良ければ、どうすれば使えるようになるか教えてもらえませんか?」


「それはもちろんいいですよ。でも今は考えがまとまらなくて……あの時も必死に考えて何となくで発動させられただけなんです」


「待ちますよ、慌てないでください。もうセレマイアのことも当分は心配いりませんし。彼女たちは戦力のほとんどを失いましたからね。もう一度懲りずに攻めてくるとしても、時間が必要になるでしょう」


「ならその間に十分研究する時間は取れますね。なんとしてでも成果を出して見せます」


「期待していますよ。私も怪魚については興味がありますので、そちらは任せておいてください」


「ありがとうございます。それじゃこの辺で失礼します。ライフも消耗してしまいましたし、今日はもう休むことにします」



 寓意術を使いこなすことができれば、この街にもっと貢献できるだろう。

 しかし、それ以上に自分自身のためにこの力を極めたいと思っている。

 魔女は俺が世界の構造にも気づいていると、俺の経験が真理に続いているとも言っていた。

 何のことかはっきりとは分からない。

 だが魔女が言っていたことが本当なら寓意術について知るということは、俺が今までしてきたことの意味、そもそも俺が生まれてきた意味を知るヒントになるんじゃないだろうか。


 俺は誰かに認められたかった。

 誰かに価値を見出されないと生きている意味がないような気がしていたからだ。

 でも今は、自分で自分の価値を確かめてみたい、この世界でどこまで成長できるか挑戦したいと思うようになっていた。


 魔女の声はシーレーンには聞こえていなかった。

 素質はどちらにもあると言っていたが、おそらく俺の方が運が良かったんだろう。

 もうこんなチャンスは二度と訪れないだろう。

 そうであるなら、無駄にしないように必死で足掻き続けていきたい。


 寓意術以外にもやるべきことはたくさんある。

 もう今日は寝よう。明日からまた忙しくなるぞ。

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