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31 課題

 セレマイア海軍が怪魚たちを置いて逃亡していく。

 戦場に生き残っている水兵はいなかった。

 逃げ遅れた水兵は皆、持っていた武器で自害してしまった。

 尋問してセレマイアについて何か情報を引き出せないかと思っていたが、彼女らのセレマイアとシーレーンに対する忠誠心は本物のようだ。


「正義は我らにあり! いざ天頂を目指さん!」


 オーガを中心とした傭兵団が勝鬨を上げる。

 

 巨大怪魚のうち、1体はイシュー様が作り上げた月を模倣した円盤を放って打ち倒した。

 その巨大怪魚は今、傭兵たちに陸へ引き摺り上げられ解体されている。

 怪魚が攻めてくることは分かっていたのでそれらは全て与えるという契約で雇われていたそうだが、まさかこんな馬鹿でかくて解体しがいのある個体が現れるとは思っていなかっただろう。


 商人も協力していて、次々に再開した市場に運び込まれていく。

 直前まで戦争をしていたのが嘘のように、市場は活気に満ち溢れていた。

 

 もう1体の巨大怪魚を倒す余力はなかったので、通報電を何度か放って知恵の塔から制裁の雷撃を当ててやった。

 すると意外と素直に巨大怪魚は海へと逃げて行った。

 いつもは頼りないが、やはり知恵の塔の管轄内にあるとその効果は絶大だった。


 動けなくなった多くの2~4メートル級の怪魚もほとんどが始末されていたが、知恵の塔を管理していたヨルノンさんのアドバイスで兵士ゴーレムに何体か生け捕りにさせておいた。


「私たちにとってこれは大きなチャンスです。今までは大量の怪魚を生きたまま手に入れる機会がありませんでしたが、これでようやく研究が捗ります」


 アロマムシやサトリグサを上手く活用できたように、この街でも怪魚を飼育することができれば大きな資源・戦力になりそうだ。

 そのためにもまた、専門のゴーレムを開発しなければならない。

 また、普段は海中にいる化物なので、海に生息する魔物にも協力してもらう必要があるだろう。

 アンティコアのような話が通じない者たちは遠慮したいが。

 そう思って海を眺めて戦いの余韻に浸っていると、船で惨殺されて怪魚のエサになっていたのであろう1人の人間が何とか陸に向かって泳いできているのに気が付いた。

 白髪交じりの50歳くらいに見えるその男の頭には、血を流した痕が残っている。


「大丈夫か? あなたはセレマイアの兵士か? それとも奴隷か何かなのか?」


 人間相手にも翻訳が通じるようだ。

 男の声が必死に何かを話そうとしている。


「違う! 助けてくれ! 俺はあんたらと戦う気はない」


「落ち着いてくれ、悪いようにはしないから。俺の名前はソロモン。あなたのことやセレマイアについて知りたいんだ」


「私は王国で濡れ衣を着せられたんだ! あんなに王国のために働いてきたのに! ああ、独裁者のレオナルドに目を付けられたのが運の尽きだった」


「それで、あの怪魚のエサにするために遠路はるばるここまで連れてこられたって訳か」


「そうだ。王国では犯罪者と見なされれば人間扱いされない。その中でも奇跡の証左の連中に引き渡されるのは最大の屈辱とされている。あの時のレオナルドの不気味な笑みは一生忘れられない」


「分かった、分かったから今は安静にしよう。そのレオナルドにリベンジするためにも色々と話を聞かせてくれないか」


「お前みたいな魔物に話しても人間の事情は分からないだろうさ。あいつらの本当の恐ろしさを知らない。今回魔物が勝てたのもただの偶然だろ」


「実はな、俺は元々人間だったんだよ。信じられないかもしれないけど。だから人間のことは分かってるつもりだけど」


「そんなまさか……だって魔物は、神が我々に与えた試練の使者であるはずだ。人間の生まれ変わりがいるわけがない」


「その話もこっちの世界に来てから聞かせてもらった。今すぐに信じてくれって言ってるわけじゃない」


「……認められん。しかし私にももうできることは限られている。魔物から安全を保障してくるのなら、ついていってもいい」


「もちろん。ディルエットはあなたを歓迎する」


「すまない。私はビーネという。よろしく頼む」


 イシュー様やヨルノンさんにも事情を説明し、城で保護することにした。

 ビーネは極めて劣悪な環境にいたために、もう先は長くないようだった。

 本人もそれに気づいているようだった。

 亡くなるまでに、聞き出せる情報は全て聞き出しておきたい。

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