30 月の寓意術
偶然手に入れた異能の力、寓意術によってとりあえずピンチを脱することはできた。
しかし、俺が最初に発現させた寓意術は体への負担が大きい。
自由に動かせるとまではいかないが、兵士相手に十分戦えるほどの速さと強さを併せ持つ血でできた腕は非常に強力だ。
だが、傷口の出血は酷く、この副腕にどんどん体の血を吸われているような感覚があった。
まさに悪魔のタロットカードから引き出した力に相応しい代償といったところか。
それに自分でも怖いほどに殺意や憎悪が湧いてきて、心が完全に暴力性に支配されてしまう恐怖を感じていた。
どうすればこの状態を解除できるか分からなかった。
「ソロモン、大丈夫か? もうあまり無茶をするな。おーい聞こえてるか?」
イシュー様の声がかすかに聞こえる。
意識がはっきりとしないのが自分でもかすかに分かる。
ぎゅっと抱きしめられる感触がする。
「少し休んでいろ」
そう言うイシュー様の声を聞くと、俺は安心して目を瞑った。
すると、右肩の副腕が崩れ落ちて体から離れ、左手に付着した固まった血とデッドエンドの破片がボロボロと崩れていった。
こんなにあっさりと解除してしまえるんだ。
やっぱりイシュー様はすごいな。
魔石板から音声が聞こえる。
<緊急事態につきライフを使用して体力を回復します 残りライフ1>
ゆっくりとだが、普通に傷口が塞がるのを待っているよりは格段に速く体力が回復していく。
10分ほど安静にしていれば完全に回復するだろう。
護衛のゴーレムが続々と集まってくる。
もう魔王を討伐するのは不可能だと判断したのか、水兵たちが岩壁から降りようとしている。
「シーレーン様に合流するぞ。全員退却しよう!」
彼女らはゴーレムに押し付けていた盾を放棄して、そのまま怪魚の階段を駆け足で飛び降りていく。
「もう降参? つまらないの。これからが面白いところだったのに」
◇
戦場を見下ろすと、残った水兵と怪魚がまだ気を失っているシーレーンを護衛しながら海へと向かっているのが見えた。
戦況はこちらがやや有利と言った状況だった。
だが少しも油断することはできない。
「魔物め、少し盛り返したからと言って調子に乗るな!! 良く聞け! 我々には神魚様がついている!」
気が付いたのか、シーレーンが大声を張り上げる。
そして彼女は部下に、最も大きい船に向かって大きく手を振らせて何かの合図を送る。
すると、船から銅鑼を叩いたような大きな音が鳴り響き、2体の巨大怪魚が海面に姿を現し始めた。
小さな船から拘束されている人々が殺されては海に投げ出され、巨大怪魚の餌食になっている。
またあの怪魚に岩壁へ迫られると不利になる。
燃費が悪いのか失うリスクが怖いのか、今まで温存していた理由は不明だが、ともかく奴らの上陸だけはなんとか阻止しなければならない。
あの不思議な空間で、俺の思考回路に導入された寓意術の理論を使って頭をフル回転させ、ここにある状況を上手く利用して侵攻を阻止できないか考える。
すると、ある1つの寓画にたどり着いた。
思いついた作戦を実行するために、はイシュー様の力が必要だ。
「イシュー様! 少し力を貸していただけませんか?」
「どうした、何をしてほしいの?」
「石の破片を集めて、太陽光を遮る大きな円盤を宙に浮かせることはできませんか?」
「その石を空から敵に向かって降らせて攻撃しろということか?」
「いえ、その円盤があの巨大怪魚を止めるカギになるんです」
「どういうこと? まあいいわ、分かった。それで確実に止められるのね?」
「俺を信じてください。今の俺には奴らを止められる気がするんです」
「ソロモンが自信ありげに言うなんて珍しいね。面白いわ、特別に言うこと聞いてあげてもいいよ」
イシュー様がその魔力で、戦場に落ちているありとあらゆる形の石を宙に浮かべて、巨大な円盤を作っていく。
太陽の光が降り注いでいると認知されては、この寓意術を成立させることはできない。
なので第一に太陽光を遮り、大きな影を落とす必要があった。
そして、俺の狙いはその石の形状にあった。
この戦場にいる全ての者に、月を連想させる形でなくてはならない。
頭の中に、タロットカードの18番目、月を強くイメージする。
戦場から集められる石の破片は、月に向かう雫のように。
集められた石は、太陽光を遮り大きな影を作り月を象徴する。
そしてそれらのイメージは、水から這い上がろうとする化物を未だ水中に留めて固定する、不自然で不気味な力を持つようになる。
この世界にタロットカードがあるかどうかは分からない。
しかし、俺の頭の中にははっきりとしたタロットのイメージがある。
魔女から授けられた神秘の力を発現させるには、それだけでも十分だ。
「歪んだ思想のセレマイア兵士よ、そして人の真意を解さない怪魚エヴィデンスよ。我らが理想郷に立ち入ることを禁ずる。月の寓意術、発動」
2体の怪魚の動きが止まる。
正確には、前に進もうとしているのだが、水兵からの命令と寓意術による呪いで板挟みになって動けない状態になっていた。
同じように、上陸している怪魚たちの動きもあきらかに鈍っていた。
また、目の前の状況を無視して、それまで戦っていた敵に背中を向けて無防備で海へ戻ろうとする怪魚もいた。
それらは魔物とゴーレムたちの格好の的だった。
次々に怪魚たちは殺されていく。
戦況は圧倒的にこちらが有利になっていった。
「……それは絶対にない。神魚様には魔法に対する耐性があるのだ! もう一度合図を送ってみろ! 船に残した奴らが状況を理解していないのだ!!」
シーレーンが怒鳴り散らす声が聞こえる。
もう一度部下たちが海へ向かって合図を送る。
だが、巨大怪魚が動こうとする気配は全くない。
「シーレーン様! ご決断を!」
「……撤退する。まだ囚人が大勢残っている船には火を放て。神魚様の陰に隠れながら離脱せよ」
ディルエットの防衛に成功した。
そして俺は、知恵の塔から預かった力とは異なる能力、寓意術に目覚めた。
今まであまり異能力バトルはやってこなかったんですが、これからは質問を解決していく活動と、寓意術を使った戦闘や寓意術の研究で話を進めていこうと思っています。
寓意術はもちろん物語を進めるために使いますが、現実の日常生活のどこかで役立つようなきっかけにもなるように書くつもりなので、気に入ってくれた方はブクマや評価もお願いいたします!
感覚的に理解して利用している人も多いのですが、多くの人が人生の中で実践できるように文字で書いて広めていきたいと思ってます。




