28 ディルエット防衛戦③
セレマイアの水兵は全員が女性で、魚の鱗を重ねたような見た目の軽そうな服を着ている。
陸へ上がると同時に、騎乗している怪魚の体に取り付けてあった金属製の鎧を素早く着込んでいく。
貝殻やサンゴなどを頭頂部にあしらった兜は、各々が簡単に区別できるほどに多種多様なデザインをしていた。
水兵たちは槍を構えてこちらへ突撃してくる。
何やら叫んでいるようだが、遠くてよく聞こえない。
しかし、明らかにイシュー様を狙っている様子なので、警戒するべきだろう。
フラガラックを抜き、デッドエンドを展開した。
戦場のゴーレムたちは、怪魚の処理で手いっぱいだ。
イシュー様がゴーレムを操作して突撃してくる怪魚水兵の勢いを殺そうとするが、止められたのはわずかだった。
持っている武器で魔物を押しのけ、怪魚の力で無理矢理にゴーレムを押し返す。
「あいつら、まさか本気で私を狙っているのか?」
「イシュー様、念のために護衛のゴーレムを近くにおいておきましょう!」
「ああ、分かっている」
しかし、岩壁には十分な高さがある。
いくら勇猛な兵士であっても道具を使わずに登ってくるのは無理なはずだ。
「魔王の首を取るのは誰か?! 輝かしい歴史の証人となれ!!」
「うおぉぉぉ!!」
「犠牲になった仲間のために!!」
岩壁にたどり着いた兵士たちがさかんに叫んでいる。
そして、怪魚の背中を強く何度か叩いて乗り捨て始めた。
怪魚たちは隙間なく岩壁に集まりだして、仲間の上にもよじ登っていく。
そしてついに岩壁の上部にまで届いてしまう高さを築き上げてしまっていた。
「なめるな!」
イシュー様が投石用の岩を魔力で空中に浮かせる。
拳を作るとそれらの岩がひび割れる。腕を振り下ろすと、怪魚が積み重なった段差によじ登っている水兵目掛けて石の雨が降り注いだ。
体に直撃した水兵が地面に落ちて、下にいる魔物に始末される。
しかし、強固な殻に包まれた怪魚の陰に隠れていた水兵はまだ登ってくる。
さっきの魔法で消耗したのか、イシュー様が息を切らしている。
「私がここで倒れるわけにはいかないんだ! ゴーレムの制御を失えば、この戦いに勝ち目はない」
突然、空から槍が何本か降ってきた。
まだ姿は見えないが、水兵が投げてきたのだろう。
イシュー様は俺が守らなくては、と強く念じながら、イシュー様の前に出る。
すると、デッドエンドが飛んできた槍を受け止め、威力を失った槍はその場にカランと音を立てて落ちる。
「助かったぞ、ソロモン」
「イシュー様は俺が守りますから、心配しないでください」
魔石板の表示から、デッドエンドにはあまり余裕がないようだった。
<回答者権限3・貭門デッドエンド ライフ8>
耐久力を示すライフ表示は2も減っていた。
この盾は扱いやすいが、無限に攻撃を吸収してくれるわけではない。
しかし、歴戦の兵士たちの攻撃の前では頼りなく感じてしまう。
水兵たちの何人かが、背負っていた大きな盾を構える。
そうして盾の後ろに2人で入って、勢いのまま護衛のゴーレムたちを押し倒して押さえつけていく。
「シーレーン様! とどめを!」
「任せておけ! お前たちの未来は私が勝ち取る!!」
あらゆる障害を乗り越えて、とうとう1人の戦士が目前に迫ってきてしまった。
「フラガラック! 心臓を射抜け!」
俺は右手に持っていたフラガラックを弓なりに投げ、思念を送ってシーレーンと呼ばれたその戦士の胸を狙った。
戦士は持っていた槍をなんとフラガラック目掛けて投擲した。
宙に浮いていたフラガラックはあえなく、遠くへ弾き飛ばされてしまった。
<回答者権限2・快刀フラガラック ライフ1 制御下にありません>
フラガラックを使えなくされてしまった。
「その首もらったぁ!」
振り下ろされた剣をデッドエンドで受け止める。
<デッドエンドのライフが減少、残り約2です>
何とか攻撃を受け止めたが、耐久値を一気に6も削れらてしまった。
「不思議な盾だな。私の剣が音もなく止められるとは。だがこれならどうかな!?」
戦士は後ろに飛びのいてから、勢いよく跳躍して体重を乗せるように剣を振ってきた。
速い! しかし、ゴーレムの制御で手いっぱいのイシュー様を守るために俺が攻撃を避けるわけにはいかなかった。
デッドエンドで攻撃を受けとめる。しかし、デッドエンドはその攻撃には耐え切れず砕け散った。
俺は威力の落ちた剣を両手で掴んだ状態になった。
デッドエンドの持ち手をどうにか刃の部分に当ててるため左手を切断されずに済んでいるが、戦士の腕力に力負けしている。
膝をついて耐えているが、長くは持たせられないだろう。
「諦めらたらどうだ? もう死ぬしかないのが分からないのか、矮小な悪魔め!」
「ソロモン! 今別のゴーレムを呼んでいる! それまで何とか耐えて!!」
「その前にこの戦いに幕を下ろしてやる!」
「俺にはまだやることがある! この世界に来てから俺を頼ってくれる存在がたくさんいることが嬉しかった! これからもイシュー様とディルエットのために働くんだ!」
「この土地は私が有効活用してやろう! 見ろ、左手に刃を食い込ませてやったぞ! もう限界なんだろう? このまま腕ごと体を真っ二つにしてやる!」
生暖かい血が腕をつたって顔に落ちてくる。
もう自分でも助からないのは分かっていた。
死ぬ前になるといつも、頭がすっきりする感覚はなんとも不思議だ。
ああ、俺はなんて非力なんだろう。
たくさんの質問に今まで答えてきて間接的に誰かの役に立っていたとしても、俺自身が大きく成長できたことなんてあったんだろうか。
このまま俺が死んでしまっても、もう誰も気に掛けないかもしれない。
代わりはいくらでもいるもんだ。
きっとここにいるのが俺じゃなくてもいいんだ。




