27 ディルエット防衛戦②
「よもや、これほどまでの決戦兵器を用意していたとは。今回も岩壁の被害は避けられないか。一旦引け!」
イシュー様の指示を受けたゴーレムたちがぞろぞろと岩壁まで引き返し、壁を背にして防御姿勢を取る。
傭兵たちの生き残りは、縄梯子を使うなどして何とか岩壁の上に戻ろうとしている。
岩壁よりも背の高い化物には単体では勝ち目はないが、ここで迎撃すれば対抗できるだろう。
しかし、2体の怪魚は追ってこず、その巨体を引きずって後ずさりしながら海へと戻っていった。
怖気づいた……訳ではあるまい。
「今回はやけに慎重ね。まだ兵士も乗り込んでこないし。セレマイアの女傑は何を考えている?」
2体の巨大怪魚が海中へ潜った。
潜って姿が見えなくなった瞬間に、また勢いよく海面から飛び出した。
それに伴ってまた津波が押し寄せてくる。
だが、津波は岩壁を越えることはなかった。
「時間稼ぎか。揚陸もしないで持久戦とは、悠長なことを」
しかし、敵の狙いはそうではなかった。
津波が引くと、そこには2~4メートルほどの怪魚が群れていた。
そうして次々に、岩壁に待機していたゴーレムたちを襲い始めている。
一方で巨大怪魚は海面に頭を少しだけ出して様子を伺っている。
鉱石屋の店主から聞いた話も思い出す。
そのハサミはゴーレムたちと戦うのに十分な硬さと威力を持ち、体の各部にはザリガニのような見た目に似つかわしくないヒレを持っている。
大理石模様が特徴的な体は、鮮やかで様々な色の個体が存在するようだ。
しかし、今ゴーレムたちに襲い掛かっている怪魚には、店主の話にはなかった別の特徴を持っていた。背中にイソギンチャクのような奇妙な生物を乗せている。
「ゴーレムを援護するぞ!」
傭兵たちは岩壁から降り、ゴーレムと交戦している怪魚に突撃していく。
今までにも怪魚を狩った経験があるのだろう、易々とのど元に取りつき、ハサミを避けつつ首筋を狙って斧を振りかざす。
すると、怪魚は突然仰け反るような反射を見せた。
怪魚の体に登っていた傭兵は怪魚の背中に投げ出され、背中に共生していた生物に触れる。
「ぐああぁっ!!」
斧を持った傭兵は悲鳴を上げ、怪魚の背中から地面に転がり落ちる。
そして、身悶えている間に怪魚のハサミに挟まれ、バツン!と体を真っ二つに切断されてしまった。
あの奇妙な怪魚と共生している奇妙な生物には毒でもあるんだろうか。
傭兵たちはこのことを知っているのか?
別の場所では、2メートルほどの小型の怪魚がハサミに付着させているイソギンチャクを振り回しながら威嚇している。
真っ二つになった犠牲者を見た傭兵たちは、イソギンチャクに触れないように距離を取るようになっていた。
「こんなの聞いていないぞ。前回はいたのか?」
「いや、俺も初めて見た。こんなのゴーレムに任せるしかないんじゃないか?」
「おい、あれを見ろ!」
セレマイアの兵士が乗る船が近づいてきた。
そして、手を縄で縛られ目隠しをされた、見すぼらしい格好の人間が船首に連れてこられている。
すると、兵士が拘束されている人たちの首を掻っ切り、海へと順番に突き落としていく。
殺された人間の悲鳴を聞いても、後に続く人たちは無反応で、特に抵抗もせずに続々と海に捨てられていく。
「また始まったか」
「わざわざこんなところまで来てお仲間を処分しに来るとは、人間は何を考えているか分からん」
巨大怪魚が、海面に浮いている死体を口元に寄せて食べ始めた。
岩壁に向かって漂着してくる死体は、小型の怪魚の食料になっていた。
同じ人間に対してここまで非情になれるのかと思いつつ、俺は惨たらしい光景に目を逸らしたくなった。
傭兵たちの言葉から、これは毎度行われていることのようだ。
奴隷か囚人かまでは分からないが、セレマイアで必要とされなくなった人間は、このように遠方の地でひそかに処分されているのだろう。
人間のやることとは思えないが、主戦力たる怪魚の食料にもなるという点では合理的だった。
傭兵とゴーレムたちは連携して、怪魚に立ち向かっていた。
苦戦している者はいまだに多いが、未知の敵に対しての解答が出始めていた。
ゴーレムがイソギンチャクを引き剥がし、傭兵は培ってきた技術で怪魚にとどめをさしている。
またあるグループでは、ゴーレムが囮になっている間に岩壁から網を投げて怪魚の上に被せ、複数体を同時に自由に動けない状態にして確実に殺していた。
かなりこちらの戦力を削られてしまっていたが、これなら持ちこたえられそうだ。
けれども、敵はそんなに甘くはなかった。
戦況が均衡してきたと思っていると、イソギンチャクが付いていない怪魚に乗った兵士の軍勢が突撃を開始し、俺とイシュー様がいる岩壁の方向へまっすぐと向かってきた。




