26 ディルエット防衛戦①
漁をしていた魔物の帰りが遅いのを心配した仲間が様子を見に行くと、多数の帆船と海面下を泳ぐ怪魚の群れを見つけたらしい。
そして、最も大きい船から低い銅鑼の音がかすかに聞こえたかと思うと、怪魚の何匹かが向かって来るのが見えたので、ディルエットの魔物に知らせるために慌てて逃げてきたそうだ。
漁に出た仲間は殺されたか、運良く逃げ出していれば今頃は海を彷徨っているのだろう。
セレマイアが攻めてきたという情報はディルエット中を駆け巡り、あっという間に戦いに向けての準備が始められていく。
「ヨルノン、手筈は整っているな」
「既に滞在していた魔物を傭兵に雇って向かわせています。商人たちも協力的です。今回はメルクルたちに仲介させておくので、私は塔の管理システムを使って戦況を把握する準備に取り掛かります」
「うん、そっちは任せた。私は今から防衛用ゴーレムを起動させてくる。ソロモン、お前はヨルノンの指示に従って行動してくれ」
「分かりました。ですが、俺も戦えます。一緒に戦わせてください」
「なら用が済んだら私のもとへ来い。今回の戦いから、新しいゴーレムを造るアイデアを考えて」
「ありがとうございます」
「では行きましょうかソロモンさん。まず、少しでも多くの魔力を確保するために農園の機能を一時的に停止しましょう。作業中の獣人たちに連絡してきてください。それから……」
俺は、ヨルノンさんから受けた指示をこなしていく。
まずは農園への魔力供給の停止。
獣人たちにセレマイアが攻めてきていることを説明し、マルグルたちを休眠させる。
そして、最も重要なのが施設に誰も立ち入らせないことだ。
サトリグサが選別され始めているとはいえ、まだ羊以外の形に膨恫嚢が変化する恐れは十分にある。
誰かがここへ入ってきてサトリグサと争うことになるのは避けたい。
知恵の塔からの魔力供給を停止してみる。
すると、膨恫嚢の形は崩れることなく、マルグルに蔓を巻きつかせたままの状態を維持している。
俺も獣人たちも距離をとっていたので恐怖の記憶を読み取られることはなかった。
確実に安全な距離が分かりやすいように目印を付けておく。
農園の一時閉鎖が終わると、アルクルたちも戦闘向けではないので停止させなければならない。
戦闘力を持たない子供の魔物と一緒に城へ避難させて休眠させる。
魔石板を確認して、剣と盾も点検しておく。
それが済んでから、俺も陣を構えている場所へと急いで向かった。
セレマイア海軍がやってきたという方角の岩壁に向かって商人たちが物資を運んでいる。
メルクルたちが即席で物置き場を設営している。
3000人もの傭兵たちも、もう戦う準備はできているようだ。
イシュー様の操るゴーレムたちが到着するまでに、もうセレマイアの船が見えていた。
一番大きな船はまだ遠く、その大きさは分かりづらい。
それに先行して全長30メートルほどの船が50か60隻航行している。
船の大きさと数からしてかなりの人数の兵士がいるのだろうか。
報告に合った怪魚の群れが確認できない。
イシュー様はこの怪魚に苦戦させられているそうだが、俺にとっては初めて見る化け物なので対応できるか心配だ。
「まだ陸には上がってきていないようね。間に合ってよかった」
「イシュー様! ゴーレムを加えてもかなりの差がありそうですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「それはもう対策済みよ。新作の投石ゴーレムで片っ端から沈めてあげるわ」
傭兵たちが岩を運び込んでいく。
ヨルノンさんがあらかじめ指示しておいたのだろう。
イシュー様が造っていたよく見かけるゴーレムの4倍ほどの大きさの投石ゴーレムが、汎用ゴーレム3体によって次々と運び込まれていく。
その珍しいゴーレムは両腕の長さが極端に違っていて、片方の手はお椀のような形に固定されている。こちらの手の中に投げるための岩を入れるのだろうか。
「発射!」
イシュー様の合図とともに投石ゴーレムの短い腕の方に汎用ゴーレムたちが体重をかけて、船目掛けて岩を投げていく。
多くの船の帆柱や船体に命中する。
岩が命中した衝撃で、海に投げ出された兵士も見られる。
相当混乱している様子が伺える。
後退を始めた船も出始めた。
「よし! 2度目の投石の準備をしておいて。敵に隙を見せれば詰められるから。ここからが正念場よ」
戦闘が始まってからあまり時間が経っていなかったが、既に膠着状態に入ったようだ。
これは俺の出番はないかもしれないな。
そう思っていると、水面に何か浮かび上がってこようとしているのが見えた。
「何あれ……?」
2つの影は浅瀬に既に着いていたようで、その全長を現す。
見える範囲だけでも7メートルはある巨大なザリガニだった。
一方は澄んだ青色、もう一方は地味な灰色をしていた。
「目標は2体の大型怪魚! 発射!」
即座にイシュー様の指示により現れた2体に岩が発射されるが、2体はびくともしていない。
「まさか、ここまでとは……」
そして、その2体の後方から大きな津波が押し寄せてきた。
津波は2体の巨大怪魚を通り抜け、岩壁にまでたどり着く。
岩壁上ではなく、飛距離を稼ぐために下に設置されていた投石ゴーレムは波に足を取られて体勢が大きく崩れる。
2体の巨大怪魚は上陸し、取り残されたゴーレムたちや運悪く流されてしまった傭兵たちを自慢の大きなハサミで切断したり勢いよく叩いて砕いて壊していく。
その間にも津波は休むことなく何度も押し寄せてきた。
津波は人工的に発生させているのだろうか?
それともセレマイア海軍の中には水に関する魔法を操れる者がいるのだろうか。
どちらも被害を受けたが、魔物の側の損失が大きいように思えた。




