25.5 奇跡の証左
ソロモンが侵略に備えるために活動している一方で、セレマイア王国ではディルエットに攻め入る動きがあった。
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もう1人の転生者である沖二未悠の魂は、アーサーがきまぐれで行った儀式によってセレマイア王国に伝わる霊剣に宿り、霊剣の精ニミューとして新しい生を受けた。
そして、セレマイア王国の第3王子アーサーは儀式に成功し神秘の精を宿す霊剣を得たことで、いよいよ自分こそが王国を真の自由に導くという英雄の生まれ変わりであることを確信するに至った。
英雄の生まれ変わりであるという妄想に以前から取り憑かれていたアーサーは、ニミュ―と出会ってからというものの、ますます英雄主義に傾倒していった。
英雄主義の伝承を鵜呑みにして、霊剣とニミュ―の成長のために日夜、国民に害をなす魔物を討伐しては霊剣のグレードアップに勤しんだ。
そして、倒した魔物の中で特に個性的で強力だったものの体の一部を加工して、魔力を宿した小さなチャームを作りあげてそれを首飾りのパーツに追加していくというのが日課になっていた。
そのような修行の成果か、ニミュ―と連携した攻撃方法や常人には真似ようとすることすらできない魔力を併用した新たな剣術を習得することに成功した。
ところで、アーサーは剣技に優れておりその才能は王国の誰もが認めるところではあるものの、普段の奇抜で自由勝手な言動や立ち振る舞いから他の王族と違って王国の将来を真剣に考えているとは思われていなかった。
他の王子や王女ですらアーサーが霊剣を得たことを聞いても、それが本当の話だと信じてくれる者はいなかった。
皆、アーサーの力をいかにして、王国内での自分の派閥のために利用すべきかを考えていた。
アーサーもアーサーで自分がそのように評価されていることを察していたが、面倒なのか他人には甘い性格なのか、積極的に自分に対する認識を改善しようとは思っていなかった。
アーサーを利用しようとする王族の一人、シーレーンはアーサーとは腹違いの姉弟の続柄である。
王位継承権もアーサーより下ではあったが、アーサーの親しみ易い性格と政治に無関心な態度から、仲はそれほど悪くはなかった。
男性嫌悪のシーレーンにとってアーサーは、数少ない男の話し相手だった。
シーレーンはセレマイアで「奇跡の証左」という派閥を率いている。
彼女はこれまで、王国内での女性の地位を向上させるために王族の立場を最大限に利用してきた。
現在、高齢な王に代わって実質的に王国を統治している第一王子、レオナルドに対しても臆することなく意見し、自身の政策を反映させてきた。
また、怪魚エヴィデンスを飼いならすことに初めて成功し、それを活用して漁業や海運業において他国よりも優位に立ち、魔物相手にも戦える強力な海軍を持つまでに至った。
もちろん、彼女の下で働くのは全員が女性で、更生の余地なしとされた男性犯罪者が例外的に奴隷として使役されていた。
彼女はセレマイアの先進的な女性たちのために、その人生を捧げているといっても過言ではなかった。
そんな彼女にも格段に嫌いな女性ができてしまった。ニミュ―である。
男であるアーサーが、転生前は女性であったニミュ―の魂を剣に憑依させて武器として使用しているのは、彼女にとって寛容できない状態であった。
長い付き合いであるはずのアーサーのことが理解できないという気持ちも多少はあったが、何より許せなかったのはニミュ―がその立場に甘んじていることだった。
シーレーンにとってニミュ―は、彼女が変えつつあるセレマイア国内の意識のあり方に逆らう苛立たしい存在だった。
ニミュ―も生前からの能天気な性格は変わっておらず、勝気なシーレーンとは折り合いが悪かった。
「アーサー、あなたが女に生まれていたらどんなに良かったかと思うわ。そして、その剣に憑りついている悪霊が男だったらってね」
「私は悪霊じゃない! それに、私も努力してるんだから!」
「私には、ただアーサーに使ってもらって、楽をしているようにしか見えないわ。プライドってものがないのかしら」
「私だってアーサーの役に立ってます! 新しい技を考えてみたり、考えた技の名前は私が考えてるし。それに私もアーサーと連携して攻撃することができるんだから」
ニミュ―は考えていると言っているが、実は転生前に遊んでいたスマホゲームからネタを転用しているだけである。
本人は自覚していないが、アーサーがゲームの主人公に偶然似ていたことに大きく影響されていた。
「アーサーはそんなこと考える必要もないくらいの才能を持ってるのよ。あなたでも思いつくような浅知恵なんてろくに役に立ってないんじゃない? ねえ、アーサー。本当は話しを合わせてるだけなんでしょ?」
「そんなことありませんよ姉上。ニミュ―はよく気が利くし、面白いし……えーと、後は優しいと思う時もあるかな?」
「具体的に何も出てこないんじゃない。呆れた。」
シーレーンはため息をつく。
(もしアーサーが女だったら、これから石の魔王を討伐するのに連れて行けたのに)
「ついに魔王を討伐できる。そしてあの台地から魔物を一掃した後、希望者を移住させて新しい理想の王国を作るの。アーサー、あなたにセレマイアの歴史が変わる瞬間を見せられなくて残念だわ」
「姉上、決してご無理なさらずに。どうかご無事で」
「ありがとう。それからニミュ―、アーサーのお荷物にだけはならないでね。あなたのせいでアーサーが危ない目に遭ったら、その剣叩き折ってもう一度泉に沈めてあげるから」
「言われなくても!」
シーレーンは港へと向かう。
前回よりもエヴィデンスの数を増やし、改良を施した特殊な個体も何種類か用意している。
魔王の側も何の対策も立てずに、前回と同じ手で防衛してくるとは思えない。
あれほど追い詰めたのだ。こちらの予想を上回る覚悟をしておかなければならない。
レオナルドが政権を握っている以上、セレマイアでの改革には限界がある。
レオナルドを出し抜くには、どうしても新天地が必要だ。
シーレーンにとってはここが勝負どころだった。




