16 服飾ゴーレム、アルクル
意外な質問内容ではあったが、服や鎧を作る職人と顧客の間を取り持つゴーレムというのはなかなか役に立ちそうな気がする。この服飾専門のゴーレムの知能を更に強化していけば日常生活だけでなく、セレマイアの攻撃からこの街を守るためにも貢献してくれるだろう。市場専門のゴーレムたちよりも更に多くの種類が必要になりそうだ。
城へ帰るとさっそくイシュー様がゴーレムの製造に取り掛かっていた。
「おかえりソロモン。今回はやけに造形にこだわりがあるみたいじゃない。 もしかしてソロモンもゴーレム造りの魅力が分かってきた?」
「はは……そういうことじゃないんですけど、とにかく今回のはサイズが重要なんです」
「ふーん、まあよく分かんないけど。まあ私に掛かればこの程度はなんてことないわ」
「さすがは石の魔王のイシュー様です」
「もっと褒めてもいいのよ!」
衣服の神様なんているのだろうか。鍛冶屋の神様の名前を付けるのは何か違うような気もする。まだ構想はないが、いつか武器に関わるゴーレムに名前を付ける時に後悔しそうだ。
ウィキペディアを漁ってみると、稚日女尊という衣服を織る神様がいるそうだ。これを捩って名前を付けようか……
◇
翌日、イシュー様から連絡を受ける。今日の昼前にはゴーレムが完成するから、その時俺がいる場所までゴーレムを送り届けてくれるというのだ。魔石板から知恵の塔に指示を送れば、ゴーレムがそこまで自動で移動してきてくれる。アルクァにできたばかりのゴーレムを見てもらうのにちょうど都合がいい。
アルクァの家に行き、アルクァのいる部屋の窓へこっそり合図を送って、人目につかないところまで移動する。そしてゴーレムが来るまでオーグリスの風習などについて雑談をしていた。
しばらくすると完成したゴーレムがやって来た。布を纏っていたのだろうが、歩いている途中ではだけてしまっいてマントのようにたなびいていた。
できあがったゴーレムには何故か目がなかった。マネキンと思えばいいとは思うのだが、これはこれで不気味なのであとで布でも巻いておこう。髪がないからか頭も少し気になったので、適当に似合いそうな帽子も被せておこう。カツラもあればなおいいのだが。
目がないのに何故か強い視線を感じる。それほどこのゴーレムには何かよく分からない迫力があった。モデルが放っている気迫に近いものがあった。
それにしてもイシュー様の技術はすごいレベルだ。完璧にあの時のアルクァの体型を再現している。特にこの胸。本物と違って硬いが、この滑らかな曲線美には思わず指が吸い込まれる。こうして両手でずっと撫でていたい……
「ちょっと何やってんの。恥ずかしくないって言ったけどね、私そっくりに造ったっていうゴーレムをそうやって触られるのは気持ち悪いからやめて。マジで引くんだけど……」
「あ……ごめんなさい」
ついやってしまった。ゴーレムを触っている俺を見てアルクァはドン引きしていて、心の底から見下す表情をしていた。穴があったら入りたい気分だ。
「それはそうと名前を付けなきゃ」
「じゃあね、私の名前からとってアルクルって付けていい?」
「いい名前だね! それにしよう!」
俺は適当に相槌を打つ。あれから名前を考えてはいたが、ゴーレムの胸を撫でまわしていた罪悪感からアルクァの案を無条件に受け入れ採用してしまった。
「市場でメルクルってゴーレムが働いているのを見て思ったの。私と同じように体型、体質で悩んでいて、誰にも相談できなかい子がいたとしても、それを解決してくれるゴーレムがいたらどんなにいいかなって……それでゴーレムたちにはお礼に、悩みを解決できた魔物の名前をプレゼントしていったら素敵じゃない?」
「すごくいいアイデアだと思うよ。皆にはアルクァみたいに勇気を出して相談してほしいと俺は思ってる。でも街のことよりもまず、アルクァにはなんとしてでも儀礼をやり遂げてほしい」
「そうよね……まず私は自分のことをどうにかしないとね」
「それじゃあ行ってくるよ。アルクル・エット、鍛冶屋に挨拶に行こうか」
「かしこまりました。ソロモン様」
その時だった。2人のオーグリスが現れた。1人は1本角に腰まで伸びるポニーテール姿、もう1人は右耳の上のあたりから曲がった1本の角を生やしてサイドテールの髪型をしていた。
サイドテールの方が話しかけてくる。
「よう、奇乳のアルクァ。儀礼用の鎧は着れるようになったのか?」
「ハサミュロ……どうしてここに? それにインバルタも一緒か。相変わらずこそこそしてるのが好きな姉妹ね」
「お前が雷神鬼とコソコソ歩いていくのを偶然見かけたから後をつけてたんだよ。そんでバレないように見てたらさぁ、壊しがいのありそうなオモチャが歩いてきたから、ちょっと遊んでやろうと思って出てきてやったんだよ。なあインバルタ」
「決闘で使う新しい技をちょうど試したかったの。1対2じゃズルしてるみたいだから、あんたじゃなくてそのゴーレムで試す。はやくどいて」
「遊び相手なら私1人で十分よ。それに今まで2人がかりでも私に勝ったことあるの?」
「ほざけぇ! あんたがサボっている間に私らは十分強くなったわ。儀礼でやり過ぎたふりしてボコボコにしてやろうかと思ってたけど」
「出る資格もないなら、その前に潰してあげる!」
「おい待て! もしここで喧嘩を始めるならあの雷撃を食らわせるぞ!」
はったりをかます。こいつらも雷神鬼の噂を知ってはいるようだから効果はあるはずだ。
「あんたは関係ない! 引っ込んでて!」
「私らのどっちかでもお前に攻撃を食らわせれば無事では済まないぞ! 1度が限界なんだろ? いいからどいてろぉ!」
ハサミュロとインバルタは頭に血が上ってはいるものの、こちらには向かってこない。そこまで馬鹿ではないようだが、ここで危険因子を取り除いておく必要はある。ついでに通報電を試す絶好の機会だ。魔石板を操作して、通報電をいつでも行使できる状態にする。
「警告を無視するなら、まずは軽めの罰から与えようか。まずはハサミュロ、お前からだ」
ハサミュロが身構えて、インバルタは攻撃する準備を整えている。だが、俺は迷わず攻撃を仕掛ける。
「ショック!!」
バチィッと音がしてハサミュロが怯む。が、痺れて動けなくなるどころか、逆に攻撃が弱すぎたのかぽかんとしている。そして大した攻撃でないことを理解してニヤリとする。
あれ、通報電ってこんなに弱い技なの? こんなものを貰って俺は喜んだり、撃つ機会がないとウズウズしていたのか。なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。もしかしたら、知恵の塔って結構繊細で、根に持つタイプなのか?
「……ふっ、ふははははははっ!! 自分の体の何倍もあるオークを一撃で倒したとは聞いていたが、実際は大したことなかったみたいだな! あの魔王様の秘書が裏で手を貸してたんじゃないのか?」
「私たちはあんたみたいな小物に構ってる暇はない。そんなことも分からないの、アルクァ」
「そうだ! 我々オーグリスは人間を滅ぼし、魔物を天頂に導き神の意思に応えるために体を鍛えて闘っている。お前のような意識の低い魔物がいるから人間に攻め滅ぼされる魔王が後を絶たないのだ!」
「天頂? 神? どういうことだ?」
「知らないのか。創造神に見捨てられた種族である人間を滅ぼし、人間に代わってより高次の世界を開拓するために生まれたのが魔物だ。そしてお前のような小悪魔は、人間に直接手を下せる高位の魔物であるオーグリスに仕えるために存在するのだ!」
「そこのゴーレムを練習台にするのにも立派な理由があるってわけ。まあ、もうあんたがどく必要はないわ。一緒に壊してあげるから!」
インバルタが俺に飛び込んできた時だった。ハサミュロとインバルタに向かって、魔石板から通報電より強力な電撃が放たれる。
「ぎゃああっ!!」
インバルタは地面に思い切り転がり体を打ちつけ、ハサミュロは立っていられず地面に膝をつく。今度は何が起きたか理解できず唖然としているようだ。
この好機をアルクァは見逃さず、ハサミュロに素早く走り寄って頭部に思い切り蹴りを入れた。ハサミュロはすごい勢いでふっとばされて地面に倒れる。気を失ったようだ。
「体が……動かない……なんで……」
インバルタは痺れて動けないようだ。そのインバルタの服を掴んで、アルクァは凄みを利かせる。
「もう鎧を着れる目途は立っているの。それとも今すぐに顔の形を整えてあげようか? 綺麗になった顔で儀礼に出て、皆に注目されたいでしょ?」
「ひぃっ、ゆるして、私が悪かったって。ご、ごめんなさい」
「歩けるようになったらそこのクズを引きずって、家で大人しくしてなさい」
「わ、わかった。わかったから離して」
「じゃあ行きましょうかソロモン」
「あ、はい。分かりましたアルクァ様」
アルクァにだけは喧嘩を売るのはやめておこうと思ったのだった。2人のオーグリスを放置してその場を離れ、アルクァは家へ帰り、俺はアルクル・エットと市場へと向かう。
市場へ向かう途中で魔石板を確認すると、通報電を発動した直後に知恵の塔からのメッセージが返ってきていた。
<通報電の発動を確認しました 現在制裁レベルを判定中です 1分ほどお待ちください>
遅い、遅すぎる。もし魔物と人間が戦争をしている理由について相手が勝手に話し始めていなかったら、制裁を待つまでもなく瞬殺されていた。これじゃあ時間稼ぎする方法とセットじゃないと、とてもじゃないが使えない。
次のグレードアップにはもっと実戦的な報酬をお願いしないと……もちろん、知恵の塔のご機嫌を損ねないように言葉を選びながら。




