15 成長期のオーグリス
魔石板に表示されている時間を確かめる。まだこの質問が投稿されてから10分も経っていないようだ。そこまで焦る必要はないが、あまり待たせるのも悪いだろう。部屋に戻り、昨日なんとなく買ってみた干し肉を袋に入れてから城を出る。
魔石掲示板に着くと一人の女性らしき魔物が待っていた。女性のオーガ、オーグリスだ。このオーグリスは頭から角を3本生やしていて、肩にかかるくらいの髪型をしていた。俺は随分と街を見て回ったので、だいたいどのような種族が暮らしているか分かるようになっていた。
しかし、何やらこのオーグリスは挙動不審だ。辺りをしきりにきょろきょろと見回している。こちらに気が付くと早口で話しかけてきた。
「あなたが雷神鬼ソロモン? ここじゃ話せないから家まで来て」
「分かった。ついて行くよ」
家にあるもので何か悩んでいるんだろうか。それとも家族と何かもめ事でもあるのだろうか。力が強く戦闘に長けた種族なので、下手に家庭の事情などには首を突っ込みたくはないが……
「私の名前はアルクァ。今ちょうど両親が仕事のことで出かけているから、質問する絶好の機会なの」
アルクァの家に着く。見た目は、この街では珍しくない岩を削って造られたものだ。
「それで何についての相談なの? あまり荒事とかは勘弁してほしんだけど……」
「そんなんじゃないわ。いい? よく見てて」
そう言うとアルクァは突然、来ていた服を脱いで上半身裸になった。服を近くにあった机に放り投げると、両手で乳首を隠して俺を見つめてくる。
俺にとって完全に予想外の出来事だった。こんなもの質問でも何でもないじゃないか。相談したいことがあると呼びつけられて来てみれば、いきなり裸を見せられる。
オーグリスは筋肉質で胸が小さいのだが、そのオーグリスの中でもこのアルクァは胸が特別大きかった。かなりサイズの合わない小さい服を着ていたのか、服を脱ぐ前よりは格段に大きく見えた。
転生する前の俺はちょうど思春期真っ只中だったし、オーグリスは人間ではないが身体的特徴はよく似ていたので、巨乳を見ることができて嬉しいとか、逆にこっちが恥ずかしいとかいう気持ちで頭がパンクしそうになった。あっけにとられて胸を見ている場合ではない。どうにか言葉を絞り出す。
「いきなり何してるの?! 恥ずかしくないの?! 痴女なの?!」
そう言うと溜め息交じりにアルクァが返事をする。
「何言ってんの……別にあんたみたいな小悪魔に見られても恥ずかしくなんてないわよ。だからこうして、わざわざあんた以外の誰にも見つからないように相談してるんじゃない」
ああ、そうですか……俺は成長したとはいえ、こっちの世界では下に見られるような見た目をしているんだった。アルクァにとっては俺は、恋愛対象にすらならないお子様とか、力に大きな差がある下級生物のような存在なんだろう。役得な感じがする一方で、なぜか寂しくなってしまった。
「それでどうなの? やっぱり……胸が大きくて変だと思う?」
「まあ、普通のオーグリスよりは大きいと思うけど、人それぞれでいいんじゃない?」
気を使って当たり障りのない感想を言ってみたのにアルクァの表情が険しくなる。
「全然よくないわよ! 胸の大きいオーグリスがどう思われているか知らないからそう言えるんじゃない!」
急にそんなふうに怒られても困る。俺はオーガやオーグリスの文化については専門外だ。
「胸の大きいのは、鍛錬をサボっていて身を引き締めていないからだとか、仕事をするのに邪魔だから嫁にはいけないとか言われるんだから!」
「そうなんだ……」
俺は街で色んな魔物を見て色々知ったような気になっていたが、詳しい文化についてはあまり知らなかったということをここで思い知らされた。どうりで魔物が困っているのに気付けないわけだ。反省しないといけない。
アルクァが深呼吸して、落ち着いて話し始める。
「2週間後に成人の儀礼があるの。そこでは伝統的な鎧を着て、今までの修行の成果を披露するために決闘をするんだけれど、私は胸が大きすぎて鎧が入らないの。両親に相談しても何とか胸を小さくしろって言うだけで何もしてくれない。最近はどんどん胸が大きくなるから、どうせすぐ買っても新しく買いなおさなきゃいけないからって、あんな小さいのを着ている始末よ」
それで着やせしているように見えたのか。
「だから、どうにかして私に合う儀礼用の鎧を作ってほしいの」
「それって、儀礼的には大丈夫なの?」
「バレたらダメに決まってるじゃない。でも儀礼に参加しなかったら成人にはなれない。だから私が鎧を特注で作ってもらうのを誰にも知られるわけにはいかないし、作ってもらってからバレてもいけない。それをどうにかしてほしいの」
「そんな無茶な……」
そんなことできるんだろうか。第一、アルクァのサイズが分からないことには鎧は作れないし……
そうだ、アルクァの体型に似たゴーレムをイシュー様に造ってもらって、そのゴーレムに合わせて鎧を作ってもらえばいい。見た目で大きく見えないような工夫は職人になんとかしてもらうしかないか。
アルクァにゴーレムを造るために必要な手順を説明して、さっそく作業に取り掛かった。アルクァをあらゆる角度から見たままのイメージを何度か魔石板に送り込んでいく。そうしていくと、無事にアルクァの採寸をすることができた。
以前、ウィキペディアで寓画のことを知った時にひらめいた、画像を使って説明する手法を思い出した。あれから全く使っていなかったが、まさかマネキンを作るための確認作業なんかに使うことになるとは思っていなかった。
体型についてのデータに加えて、アルクァの事情を魔石板に入力する。
「これで必要な情報は揃ったはずだ。前回とは違うけれど、知恵の塔はこれで必要なゴーレムの設計図を起こすはずだ」
しばらくすると、魔石板からアナウンスが流れる。
<回収した情報から新たな設計図が作成されました>
「とりあえずゴーレムはできそうだよアルクァ」
「本当に?! やったあ! ありがとうソロモン!」
「喜ぶのは早いよ。まだゴーレムの作成に取り掛かったところだし……あと、もう服を着ても大丈夫だから」
アルクァの両親が帰ってこないうちに、俺はアルクァの家を後にした。またゴーレムの名前を考えておかないといけないな。




