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11 制裁

 少し寝るだけのつもりだったが、目が覚めると日が暮れ始めていた。慌てて起きて、城門の内側に休ませておいたゴーレムを連れて市場へと向かう。あの後無事に岩が売れたのか気になる。


 市場へ向かっている途中のことだった。早朝俺のことを追い回していた子供たちが俺の方へと向かってくるので、俺は急いでゴーレムの後ろへ隠れて忠告する。ゴーレムは俺を庇うように両手を広げて子供たちの前に立ちふさがる。


「おい、何やってるんだ? こっちにはゴーレムがついてるんだぜ」


「違うって! 鉱石屋のおっさんが石板に乗った小悪魔を探してるんだって! なんかすごい強そうなオークに絡まれてるから早く来てって!」


 なんでそんなことになってるんだ? 店主は何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。


「分かったよ。教えてくれてどうも」


 俺は子供たちを尻目に、市場へと急ぐ。市場へと近づくと、何やら人だかりができているのが見えた。ヨルノンさんに連れられた時に見た魔物の喧嘩の様子を思い出す。


 ゴーレムの足音を聞いたのか、野次馬の何人かが俺の方を見る。


「こいつじゃねえか?」


「おい、小悪魔が来たみたいだぜ」


 次の瞬間、誰かが俺の乗っている魔石板を掴んで人だかりの中へと引きずり込んだ。護衛についていたゴーレムから引きはがされてしまった。ゴーレムはこっちへ来ようと動いているが、野次馬に阻まれて合流することができない。

 目の前には、店主と大柄なオークがいて、彼らの足元には真っ二つに無惨に割られた岩が転がっていた。


「あんたがこの普通の岩を魔王様も認める最高級品だって嘘ついたのが悪いんだぜ? 広告見て来てみれば怪しさ満点だったから、大枚はたいて買って試しに割ってみたら、やっぱりただの何の変哲もない岩じゃねえか」


「こ、この立派な岩を半分に割ったら価値がなくなるのは当然だ! あんたが勝手に岩を無価値にしただけだろ! 素人に何が分かるんだ!」


「とにかく、俺を騙した代償は高くつくぜ。代金は返してもらうし、ここに置いてある商品は全部いただくとして、おっさんはしばらく鉱山で俺のために働いてもらおうじゃねえか」


 オークがニヤつきながら言っているところを見ると、店に陳列されている他の鉱石を奪うために、わざと店主の嘘に乗っかって岩を買ったのだろう。店主の嘘も下手だったが、俺も少し調子に乗ったアドバイスの仕方をしたのが悪かった。


「で、このチビ悪魔にそそのかされたんだって言ってたな?」


「さっきからそう言ってるだろ! 俺は全然悪くないんだって!」


 え、もしかしてこの店主俺のことチクってたのか。これはかなりまずいぞ。


「いや~ここは話し合いで……」


「鉱山で働かせるのはナシにしてやる。代わりにこの悪魔をボコボコにして、変な石板を金に換えるからよ!」


 オークの腕が俺の頭を掴もうとするが、間一髪避けることができた。今朝のことがあったからか、避ける操縦だけは上手くなっていた。だが悠長に相手をしている場合ではない。まずゴーレムと合流するためにこの人だかりから抜けなくてはいけない。


 俺は魔石板の高度を上げ、勢いよく飛び出して人垣を超えようとした。


「逃げんじゃねえ!!」


 逃げる以外に選択肢があるかよ! とにかく態勢を立て直して、何とか交渉できるようにしなければ。


「待てって! まだ喧嘩は始まったばっかりだろ!」


 逃げようとする俺の魔石板をまた誰かが掴んで中央へ投げ込んだ。こんなのアリか?! 野次馬も俺の味方ではない。ただ喧嘩を見て楽しみたいだけのようだ。非力な俺からすればたまったものではないが。


「そうだ。てめぇにはきっちり払ってもらわないとな!」


 オークが近寄ってくる。どうする。俺には攻撃する手段は一切ないんだぞ。魔石板を操縦するのにも神経を使うし、いつまで攻撃を避け続けられるか分からない。


 オークが金属製の長い棒状の武器を取り出した。その武器から繰り出される攻撃を俺は何とか避けていくが、オークは余裕の表情を浮かべている。気が付くとすぐ後ろには野次馬の壁が迫っていた。


「もう逃げられねえぜ」


 このままではオークに殴り殺されて終わりだ。いっそこんな地味な死に方をするなら、ヨルノンさんが言っていた雷撃を試しに喰らってみればよかったか……

 待てよ。もしかしたら知恵の塔システムから下される雷撃に、周りを巻きこんでしまう欠陥があったとしたら? 巻き添えで目の前にいるオークを倒せるかもしれない。


 俺は一か八か、この作戦に賭けるしかなった。勢いよく魔石板を移動させてオークに飛びつく。そして魔石板に向かって、知恵の塔に反抗するようなセリフを並べ立てる。


「聞こえているか、塔の真下でうなだれてばっかの役立たずが! お前がろくに魔力を渡さないせいで俺がどれだけ苦労してるか知ってるか!?」


 すると魔石板から耳障りな音と共に警告文が発せられた。


<警告します 知恵の塔システムへの不適切な発言及び不適切な質問内容は処罰の対象です 速やかに取り消してください>


「まともに回答させる気あるのか? やる気あるなら俺にチート能力の1つでも渡してみろ! この能無しが!!」


<……雷撃による制裁を実行します 3…>


「何やってんだこの! 俺から離れろ!」


 オークが俺を上から殴りつける。だがこの攻撃はライフで受ける。肩のあたりに痛みが走る。俺の体は魔石板の防護壁に守られているが、衝撃を完全に吸収してくれるわけではないらしい。


<ライフが2に減少しました 2…1…>


 直後、目の前が真っ白に光って、ものすごい衝撃を受けた俺は吹き飛ばされ気を失った。


<ライフが1に減少しました……>



 気が付くと、俺と魔石板は連れて来ていた護衛のゴーレムに抱きかかえられていた。周囲を見渡すと、たくさんの魔物が思い思いに、光り輝いている石のかけらや手ごろな大きさになった石を持って店主に代金を支払っている。


「あの何でもない岩が雷撃でこんなにきれいな石に生まれ変わるとはな。今日はラッキーだ」


「この形は縁起がいい! 記念に買っておこう」


 あの真っ二つに割れた岩がない。もしかして皆が拾っている欠片が岩の残骸なんだろうか?


「お? 目が覚めたかソロモン。あんな強力な魔法を扱えるなんて知らなかったよ! おかげでいい稼ぎになったぜ!」


 店主は忙しそうに会計をしながら、こちらに満面の笑みを向けてくる。少し前までオークに怯んでいたくせに、調子のいいオヤジだ。


 聞くところによると、俺が知恵の塔システムからの制裁を受ける際に、オークが持っていた武器に雷が直撃してオークはそのまま気を失ったようだ。俺の方はというと、魔石板のライフは減少したが防護壁に守られているので体に大きなダメージはなく、衝撃で気絶していただけのようだった。

 そして、近くにあった岩も雷の影響を受けて粉々に砕け散ったが、何故かその一部は魔法による雷撃の影響か綺麗な色に変色したようで、それ欲しさに周りにいた魔物が殺到したようだ。その時、この辺りは酷く混乱していたようで、店主はゴブリンの振り回していた武器を使ってどうにかして客を整理させたらしい。そして現在に至る。


「これやるよ。魔王様によろしくな、ソロモン」


「え、ああ。ありがとうございます」


 店主がいくつか取っておいたという変色した石と、陳列されていたいくつかの鉱石を渡される。これを売れば食べ物を買えるし、イシュー様へのお土産にもできるだろう。


 とりあえず、今は急いで城へ戻ろう。ライフが1しかないのは心もとない。ヨルノンさんに頼んでライフを回復してもらわないと……


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