93 怪蜴エイム
もう敵にバレてしまっているので無駄な魔力の消費を抑えるために変身を解く。
「大人しく我らが神使の炎に浄化されろ」
フードを被った者たち4人が迫ってくる。
彼らが乗っている体長3メートル弱はあるかという大きな赤い蜥蜴が口角から黒い煙を燻ぶらせている。
いつでも炎を吐く準備はできているようだ。
「酷い言われようだな。俺はこの街のために頑張ってきたのに」
「そうやって信頼を得ておいて気付かれないように侵略を進めているのだ。皆さん騙されてはなりません」
固唾を飲んで見守っている周囲の魔物にもよく聞こえるように大きな声で話はじめる。
「ゴーレムの知能が完成されれば皆さんの仕事は全て奪われ、ゴーレムと石の街を保守するためだけに生きる奴隷の身分に落とされるでしょう!」
「そうなる前に悪魔と石の魔王を追放してゴーレムを破壊し、皆さん自身がこの街の主役とならなければなりません」
「怪魚の侵攻もこの悪魔の仕業だったのです。もはや我々の追及を逃れることなどできません」
フードの集団の1人が指をパチンと鳴らすと、俺のつま先から火が出た。
「熱っつ!」
あわてて地面にこすりつけるとすぐに消えたが、まだかすかに熱を感じる。
そしてはっきりと業魔力の気配を感じた。
フードを被っていて顔貌ははっきりと確認できないが、こいつらはおそらく人間で、赤い蜥蜴は怪物だ。
なぜ周りの魔物は気づいていないんだろうか。
被っているフードに人間の気配を消す効果があるのか。
「もういい。これ以上手遅れになる前にここで火あぶりにしてしまえ!」
冗談じゃない。
さっさとこの包囲から抜け出して怪物の能力を解析してもらわなければ。
きっとバーリャならこの中の1人から悪夢を受け取って見ているはずだ。
「させるか! 回答者権限寓意術、闇より黒い帳!」
ローブの集団を取り囲むように黒いカーテンが2重に出現する。
「なんだこれは。ええい、こんなもの燃やしてしまえ!」
黒いカーテンに向かって火を放っているようだが無駄だ。
この寓意術で作られた障害は一切の業魔力を遮断する。
やつらがもたもたしている間に魔石板に乗って黒いカーテンを飛び越えて城へと一目散に向かう。
「タリオン隊長、悪魔が石板に乗って逃げていきました」
「悪魔め、絶対に逃げられると思うな。お前が灰になるまで追い詰めてやるぞ!」
フードの集団から罵声が浴びせられる。
2重のカーテンが彼らを包むように幅を狭めていく。
これでしばらくの間は追ってこれないだろう。
彼らの使役する怪物は怪蜴エイムと名付けておくか。
◇
城に到着するとバーリャとパラスが出迎えていてくれた。
「ソロモンさん、また夢を見ました。でも街の中まで届くなんて相当強力な怪物なのでしょうか」
「いや、もう街の中に入ってきてる。それでどんな夢を見たの?」
事態が思ったより深刻だったことにバーリャがたじろぐ。
深呼吸をして息を整えてから話してくれた。
「はい……今度は家と家族を燃やされる少年の夢を見ました」
やはり火に関連する能力を持っているのか。
「ちょうど火を操る赤い蜥蜴に襲われてたところだ。名前は怪蜴エイム。それでそのセレマイア人の名前は分かった?」
「タリオンです。彼も火事に巻き込まれて重傷を負いましたが、大きな蚊の怪物を自在に操る男の人に治療されて一命をとりとめました。そしてその事件をきっかけに業魔力が覚醒して怪物使いになった後は王から直接命令を受けて任務にあたっていたようです」
「王様じきじきに? ただの怪物使いがそんなに重宝されるのか?」
「王位を奪おうとする怪しい動きをする人物を粛正するために活動していたようです。彼が率いる集団に襲われているのはいずれもセレマイアの貴族でした」
「……ねえ、ソロモンの足から煙が出てる。熱くないの?」
パラスに言われて足元を見ると確かに煙が出ている。
といっても熱さは全く感じないし線香のように細い煙だ。
急いで来たために気付かなかったが、さっきつけられた火がまだくすぶっているようだ。
再び地面にこすりつけてみるが、不思議なことに煙は消えなかった。
「熱くはないんだけど消えないな。それにうっすら業魔力も感じる」
バーリャが顎に手を当てて考えている。
「やっぱり単なる火属性とも違う感じがします。五行の魔法と似てて違う。ソロモンさんの足にかけられている業魔法は、多くの人間の吊るし上げたい悪意が寄り集まってまるで燃えてるように見えます」
「業魔力にも五行の魔法と同じように属性があるのかもな。蜥蜴野郎の使う魔法は焱魔法って呼んでおくか」
属性を当てはめてみたところで五行の魔法と同じように対処できるかは分からない。
水剋火の要領で、水を使える怪魚エヴィデンスなら奴らに対抗できるだろうか。
「見つけたぞ、あそこだ! 火のない所に煙は立たぬ! 搾取の悪魔を徹底的に叩き潰せ!」
声のした方を見るとローブの集団が近くまで迫っていた。
「もう追いつかれたのか」
「きっとソロモンさんの足に掛けられた業魔法の気配を頼りにしているんだと思います」
「焱属性、ランクB、SSS『火のない所に煙は立たぬ』ってところか」
奴らはこの煙を頼りに俺の動きをいつでも把握できるようだ。
一旦ディルエットの外まで逃げようか。
そう思ってローブの集団の反対方向を行こうとすると、今度はスリングの布を持ったディルエット住民の集団が見えた。
「搾取の悪魔め! 私たちの仕事を奪うな!」
「あんたさえこの街から出ていけば何も起こらなくて済むんだ! 私たちの仕事を奪うな!」
目は虚ろでひたすら同じ言葉を繰り返している。
怪蜴エイムの業魔法で操られてしまっているのか。
闇より黒い帳を怪物使いから引きはがしたのも彼らだろう。
「……焱属性、ランクA、SSS『私たちの仕事を奪うな!』」
対策も思いつかないうちに挟み撃ちにされてしまった。




