92 招かれざる者
その日はもう遅かったので、カウカウラのところで泊めてもらうことにした。
翌朝、近くでとれた魚を使った料理をご馳走になってから帰る支度をする。
「カウカウラ様、お世話になりました」
「半竜の少女よ、手荒い歓迎をしてすまなかったな。達者でな」
「……人魚たちはあなたに感謝してた。会ってあげて」
「そうか。私も彼らとよく話をしないとな」
カウカウラに別れの挨拶をすませてディルエットへの帰路につく。
帰ってくると、戦いで消耗したライフを回復するために真っ先に塔に向かう。
<後任の育成と支局の確立を評価してグレード5への昇格を承認します>
人魚の集落での功績を評価され、再び管理権限を得ることができた。
ようやく削除隊の運用に取り掛かれそうだ。
外の空気を吸うために城を出ると違和感に気付いた。
街で働いているはずのゴーレムが1体も動いていない。
近くにいる住民に話を聞いてみる。
「ゴーレムはどうしたんですか?」
だが住民は何も答えずそそくさと去っていった。
周りの住民も俺と目を合わそうとしない。
どうやら避けられているようだ。
ヨルノンさんに異変を連絡しようとして魔石板を取り出そうとした時、背中にべちゃっとした生温い感触が伝わる。
「やった、俺のスライムボールが当たったぞ!」
「くそ! ソロモンが動かなかったら俺の投げたのが当たったのに」
手に変わった形の布をはめた3人のゴブリンの悪ガキどもが騒いでいる。
地面には灰色でゲル状の何かが落ちている。
背中に手を回してみると、同じものが手にへばりついた。
「お前ら何するんだ!」
「逃げろ!」
悪ガキどもは笑いながら走り去っていった。
「後で覚えとけよ!」
投げつけられた灰色の物体は体にねっちょりと纏わりついて取りにくい。
近くにいる魔物に話を聞こうとしたが目を逸らされてしまった。
俺のいない間に何があったんだ。
人気のない路地に入ってから回答者権限寓意術、禍免橆韜晦を使って案山子に変装する。
悪魔のソロモンの姿でいるよりはマシだろう。
またゲルを投げつけられても困る。
ヨルノンさんも今のこの異変についてはよく知らないだろうから、まずは自分で情報を集めてみよう。
情報を知っていそうで頼れる魔物を考えてみる。
鍛冶屋のサイラスは何か知っていそうだが、サイラスは気性の荒いオーガと関係が深い。
今オーガと出くわしたら何をされるか分からないから避けるのが無難だ。
鉱石屋の店主のところへ行こう。
◇
目立たないように市場の隅を歩いていく。
相変わらず暇そうにしている鉱石屋の店主に話しかける。
「お久しぶりです。ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「おい、お前ソロモンか。ここで話をしないでくれ。誰かに見られたらまずい」
店の奥へ案内されて、俺がディルエットを離れている間に起きたことを説明してもらった。
「あんたらが街を出た直後に赤い大きな蜥蜴に乗ったフードを被った集団が来たんだ。それで奴らが言うには、最近塔に集まっている魔物はゴーレムを使ってこの街を支配しようとしているんだと」
タイミングが良すぎる。
ずっとディルエットを監視していて侵入するタイミングを見計らっていたかのようだ。
「根も葉もないことを。皆それを信じているんですか?」
「半信半疑の奴も多いが、なにせこのところディルエットも厄介ごとに巻き込まれてばかりだ。ストレスも溜まっているんだろうな。怪魚も火事もソロモンが手引きしたって思い始める奴も出てきた」
「そんな馬鹿な」
「街中に吹き込んだせいで皆あんたらのことを怪しんでいるよ。おかげで今もゴーレムは休止したままだ。また前の生活に戻っちまった」
「変なゲルをぶつけられた。それも奴らの仕業なんですか?」
「街に染み付いた悪魔の呪いを吸い取るためだって言ってスライムボールを配って回っているよ。おかげでどこもかしこもスライムまみれだ。魔王様も城から出てこないっていうんで余計にややこしくなっている」
きっとまだ作業部屋の中でゴーレムを作っていて外の状況に気付いていないのだろうか。
それにもし人間が侵入したのならゴーレムもイシュー様もすぐに気付くはずだ。
フードを被った魔物の集団は何が目的でこんなことをしているのかもう少し調べてみる必要がある。
「ありがとうございました」
「おう、気を付けろよ」
店主にお礼を言って鉱石屋を出るとすぐさまフードを被った集団に囲まれた。
尾行されていたのか、誰かに密告されたのかは分からないがピンチには違いない。
「変装しているがこいつがソロモンに間違いない! ゴーレムでこの街の支配をもくろむ邪悪な魔物め!」
「余所者の分際で言ってくれる。帰って来て早々面倒臭いことさせやがって」




