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記録


神殿の使いが訪ねてきたのは、翌日の午後だった。


ルーシアの家には、フィンとルーシアの両親、それにカイルとエレナも集まっていた。エドガーは前回と同じ穏やかな態度で、勧められた椅子に腰を下ろした。


「急な訪問になってしまい、申し訳ありません」


「妹のことですから、話は聞いておきたいと思っていました」


フィンの父親が答える。フィンは妹の隣に座り、エドガーの様子を注意深く見ていた。


「まず、ルーシアさんの健康状態についてお話ししたいと思います。神殿には、幼い頃に心臓の不調について相談があった記録が残っていました」


「それは私の診療記録ですね」


エレナが確認する。


「はい。長く体調を崩されていたことは記録にあります。ですが、最近になって急に回復されたと聞きました。同時期に、森で強い光が目撃されたという話や、その後彼女の周囲で特別な精霊の反応があったという報告も届いています」


「昔の記録と、最近の報告は別のものですね?」


「その通りです」


エドガーははっきりと答えた。


エレナはそこで少し表情を引き締めた。


「それなら、まず確認したいことがあります。ルーシアの体調については、先日も私が診察しました。今は心音に異常がありません。ただ、症状が改善した理由までは分かっていません」


「精霊の力によるものではないかと考えています」


「可能性はあるでしょう。ただ、身体の状態が変わったのか、精霊が継続的に補助しているのかで、今後の対応は変わります。神殿には同じような事例の記録がありますか?」


「関連する事例はいくつかあります。ただし、ルーシアさんと同じ経過をたどった例があるかは、調べてみなければ分かりません」


「症状が改善した例だけでなく、悪化した例も知りたいのです。良い影響が出ているからといって、今後も安全だとは限りません」


「承知しました。資料を確認して、改めてお持ちします」


エレナはうなずいた。神殿の説明をそのまま受け入れるつもりはないらしい。


カイルは話を聞きながら、エドガーの言葉を頭の中で整理していた。


神殿が知っているのは、ルーシアが昔から病弱だったこと。そして、最近になって体調が回復し、精霊との関係を疑われるような現象が起きたことだ。


塔の中で見た光景を知られている様子はない。


「神殿は、その精霊が何なのか分かっているんですか?」


カイルが尋ねると、エドガーは彼に顔を向けた。


「今のところ、光属性の精霊である可能性が高い、という程度です。通常の精霊とは反応が異なるという報告もありますが、正確な性質までは確認できていません」


「どこが違うの?」


「精霊の反応が強いこと、そしてルーシアさんの身体に影響を与えているらしいことです。詳しい調査はこれからになります」


「森で何かあったから、精霊が来たのかな?」


エドガーはすぐには答えなかった。


「その可能性はあります。森で光が目撃された時期と、ルーシアさんの体調が回復した時期は近いようですから。ただ、原因までは分かっていません」


「その報告は誰から?」


「町に残っていた話や、関係者からの聞き取りです。まだ確認できていない情報もあります」


エドガーは穏やかに答えたが、カイルの方を見つめる時間が少し長くなった。


「君は精霊について、ずいぶん興味があるようですね」


「分からないことが多いから」


「確かに、精霊には解明されていないことがたくさんあります。興味を持つのは良いことです」


「神殿なら、いろいろ知っているんじゃないの?」


「長く研究してきた分野ではあります。ただ、知っていることにも限りがあります。私たちも、まだ調べている途中なのですよ」


その言葉に嘘はないように思える。

けれど、エドガーが何を調べようとしているのか、カイルにはまだ見えてこなかった。


話し合いの最後に、神殿から簡単な検査を勧められた。

精霊との反応を調べる道具があり、身体に負担をかけずに確認できるという。


ルーシアの両親はその場で返事をせず、検査の方法と使う道具について詳しい説明を求めた。エドガーは資料を持参すると約束し、家を辞した。


彼が帰ったあと、ルーシアは椅子の上で足を揺らしていた。


「ねえ。私、検査を受けてみたい」


フィンがすぐに妹を見た。


「本気?」


「うん。自分の精霊が何なのか、私も知りたいんだよ」


「神殿が何を考えているか分からないだろ」


「でも、知らないままでいるのも嫌だよ」


「知らなくていいこともある」


「それを決めるのはフィンじゃないでしょ」


ルーシアの声が少し強くなった。


「みんな私のことを心配してくれるのは分かってる。でも、何をするにも危ないから駄目って言われたら、何もできないじゃん。前は病気だったから仕方ないと思ってたけど、今は走れるし、魔法だって使えるんだよ」


フィンは返事をしなかった。


ルーシアは兄の顔を見て、少しだけ声を落とした。


「自分のことくらい、自分で知りたいの」


「検査の内容を確認してからにしよう。危険がないと分かるまでは、僕も賛成できない」


「それならいいよ。ちゃんと説明してもらおう」


エレナも、検査を受けるなら方法を確認してからにしようと告げた。神殿の道具がどのような仕組みで精霊の反応を調べるのか、医療面からも確かめたいという。


カイルはその様子を見ながら、塔の中で起きたことを思い返していた。


あの人型の精霊は、最初にルーシアの胸元を見ていた。彼女の精霊も、それに反応して光を強めていた。


神殿が調べようとしているのは、あのときの現象と同じものなのだろうか。


帰り際、エドガーが自分を見つめていたことも気になった。

塔の内部に入ったことを知られているとは思えない。


それでも、あの男はカイルの質問に少しばかり興味を示していた。


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