第6楽章 弾くのが下手でも
音タノ市立オンプ高等学校。
早朝。ピアノ部。
カナデは、マイクくんが買ってくれた楽譜を見る。
簡単なドレミ。小学生レベルの音楽。
でも、これが一番大好き。
続けたいこと。
ドの音を鳴らす。
綺麗。楽しい音。音楽。
上手く弾く人が優秀だと、誰が決めたのだろう。
お金をもらって演奏する職業のためか。
ただ趣味で続けたい。
でも、夢がある。
小学生の時から、大きなホールでピアノを演奏したい。夢を見ている。
ずっと、ピアノを続けたい。
「…カナデちゃん」
あれ。マイクくんだ。
「音坂先生に聞いた。いつも、早朝に一人で練習してるって」
「ああ、そうなのよ。午後からじゃ、ピアノさわらせてもらえないから」
「ピアノ部って。他の子。誰も朝練しないの?」
「才能がある人たちだから、いいんじゃないの?」
「失敗した」
マイクくんは、うつむく。
「カナデちゃんの全部知ってるつもりだったのに」
第6楽章 弾くのが下手でも
「マイクくん。どうしたの」
「全部、知っていたいんだ。気づいて」
マイクくんは、切実に言った。
カナデの全てを知りたいということ。
「何が」
「カナデちゃんの近くにいつもいたいんだ」
「あら、そう」
「ネガティブモードなの?」
「さあ、どうかしら」
目つきが暗い。
カナデのネガティブモードだ。
「ごめんね。今度からは、早朝練習にも、付き合うから」
「別にいいけど」
「オレが、一緒にいたいんだよ」
「何で」
「す、好きだからだよ。カナデちゃんのこと…」
「あら、そう」
こんな、ピアノの才能がない女の娘を、好きな人なんていないだろう。
カナデは、暗くなる。
「嘘ばっかり…」
「嘘じゃないよ。好きだよ」
「…」
「好きなんだ」
ぎゅ。
大好きなグランドピアノの座席から離れたくないカナデを、マイクくんは、抱きしめた。
「え。何よ…」
カナデは、ドライだ。乾燥している。
気づくのに時間がかかる。
「好き?アタシのこと?やめなさいよ。才能ないのよ」
頭の中は、ピアノのことでいっぱいだ。
「マイクくんって人気あるじゃない。もっと女の娘を選んだほうがいいわよ」
「才能なんて気にしないでいいんだよ」
「アタシ、下手だもの」
「だから、気にしなくていいんだよ」
幼なじみのカナデは、本当に小学生の時に『楽園のうた』を大好きになった。
ドレミの音、一つ一つが大好き。
目立たない地味な女の娘ではない。ピアノを大好きな、可愛い女の娘。
マイクくんは、この女の娘が好きだった。
カナデの一番は、ピアノ。
でも、男の子の一番は、自分にして欲しい。
「アタシも…。マイクくん好きだけど」
カッコよくて、優しい幼なじみ。
「じゃあ、付き合おうよ。キスしよ!ね!」
顔を近づけるマイクくん。下心がある。
「は、恥ずかしいわ…」
マイクくん、大声やめて欲しい。朝は、響くから。
二人は、目を閉じる。ゆっくり、キスした。




