第5楽章 上手く弾ける娘にも
ママハ楽器店。前。
「マイクくん」
「カナデちゃん、待ってたよ」
普段着の二人。いつもは、制服。
白シャツのマイクくんは、なかなか、カッコいい。
白いワンピースのカナデも、自分では地味と思っていても、可愛い。
白いお洋服同士。何だか笑える。
センスが近いのだろうか。
「ははは。カナデちゃん、白いお洋服好きじゃん」
「そうそう。白いお洋服ばっかり持ってる」
ザワザワ。
楽器店の中から、ざわつく声がする。
カナデとマイクくんは、楽器店に入る。
「ピリカ。貴方は、もっとレベルを高くするのデス」
作曲家の石原ユメ。
ピアノ部の石原ピリカさんの母親だ。
バシッ。
母親ユメは、娘のピリカさんのほほを、平手打ちした。
「もう高校生なのだから、最上級クラスのピアニストを目指しなさい」
「…」
「全国大会で優勝しなさい」
母親ユメは、それだけ言うとタクシーで帰ってしまった。
第5楽章 上手く弾ける娘にも
ママハ楽器店。店内。
ほほを押さえて、ピリカさんがうつむいている。
「…レベルが低すぎる貴方にはわかりませんよね」
ピリカさんは、皮肉めいて笑った。
泣きそうな顔。
ピアノのアイドルが、何故なのか。
「ピリカさん、大丈夫?」
「…大丈夫じゃないです。実力不足と言われました」
天才のピリカさん。
しかし、世の中には、天才は何人もいて、競い合っている。上位争いをしているのだ。
カナデも知っている、理想と現実。
「…貴方は、ドレミを弾くだけですよね」
「そ、そうだけど」
悪口を言われる。我慢する準備をするカナデ。
「…私だって、ドレミだけがいいです。う」
ピリカさんは、泣き出して、両手で顔を覆った。
ドレミだけが楽しい。
それは、カナデが小学生の頃から思っていること。
クラシックとか、BGMじゃつまらない。
ドレミだけ弾く。
小学生レベルのままが一番楽しい。
それを、カナデは今も続けている。
「…高橋さんがうらやましいです。う。う」
泣いている。ピリカさん。
高橋カナデ。思わず、背中をさすってあげていた。
「カナデちゃん。優しいね」
亜門マイクくんは、腕を組んで、見ていた。
カナデには、優しいマイクくん。
ピリカさんには優しくしない。ちょっと、怒っている。
「マイクくん。怒ってるの?」
「いつも、オレのカナデちゃんにヒドい娘なんて、助けたくないよ。カナデちゃんお人好しすぎる」
「え」
「…帰ります」
ピリカさんは、楽器店を出て行った。
「『楽園のうた』の楽譜を探そうよ」
「…あるかしら」
初心者向けを探す。楽譜は、すぐ見つかった。
値段は…。
「買ってあげるよ」
マイクくんが、買ってくれる。
「ドレミも書いてあげるね。オレが優しいのは、カナデちゃんだけが“特別”だからだよ」
カナデの瞳を真面目に見つめてくるマイクくん。




