第3楽章 歌う声が聞こえて
音タノ市立オンプ高等学校。
ピアノ部。
「音坂先生。お願い」
「はいはい」
マイクくんが甘えた声でお願いして、ピアノ部の音坂先生が一曲だけを許してくれる。
静寂の後。はじめる。
「レッツ ゴー レッツ ゴー」
音楽は、『楽園のうた』。マイクくんが歌ってる。
「パラ ダイ ス」
これを、カナデは、ピアノで弾く。
単純に簡単な、小学生レベルの腕前で。
これでも、音を外すこともあるし、緊張してミスする。
ゆっくり流れる時間。
ゆっくり歌ってくれるマイクくん。
間違えないように。緊張しても最後まで。
「…本当に、高橋さんは、レベル低いねえ」
「…カッコいい彼氏の自慢大会じゃない」
聞こえる。悪口。
指が止まる。
「ピアノ部の仲間を悪く言うなよ」
マイクくんは、悪口を言う部員に文句を言う。
「…レベルが、低いのは本当です」
ピアノの天才。ピリカさんが厳しく言う。
言う。言う。言う。
全部、カナデの才能がゼロだから。
「もう一回。やろう。カナデちゃん」
「え」
第3楽章 歌う声が聞こえて
小学生の頃。
「レッツ ゴー レッツ ゴー」
マイクくんが歌う。
カナデは、ピアノを弾く。
ド、レ…。
ミ…。
簡単だった。頭の中も上手くいく。
指が動く。楽しんで弾く。
視覚で確認してからじゃないとできないけど。
できるの。頑張るの。
だって、大好きなんだから。
だって、こんなに大好きなんだから。
もっと上手く弾けるようになれるはず。
「オレに任せて、カナデちゃんのピアノに合わせるから」
「…うん」
小学生レベルのピアノ。
何が悪いの。楽しいなら、それで良い。
それが、音楽でしょ。
現在。
「パラ ダイ ス」
歌に合わせて、余韻を感じて。
終了。
静寂の後。ピリカさんが立ち上がる。
「…グランドピアノから離れてください」
厳しい声で言われて、あわてて離れる。
代わりに、座ったピリカさんは、見事な演奏をはじめる。
レベルが違いすぎる。
居心地の悪い部室を抜け出した。
2年P組。
一人きりの教室。
高橋カナデ。ネガティブモード。
小学生レベル。どうせ、レベルが低いわよ。全然、才能ないから。何やってるんだか。
部員の練習時間を邪魔したけど。別にわざと下手になったワケじゃない。
家に練習用のピアノなんかあるワケないじゃない。
学校でしか、練習できない。
差がつくのは当たり前でしょう。
あ~あ、本当に音楽って、才能のある人だけのものなんだ。バカみたい。
才能がないから、早くやめろって言いたいんでしょ。
才能ゼロで、夢見ても、傷つくだけだ。
悪口。
本当に言われた。
もう、嫌だ。
音楽なんて、もうやめればいいのかな。




