第2楽章 鍵盤に指を当てて
音タノ市立オンプ高等学校。
早朝。ピアノ部。
ドの音を鳴らす。静かな中に、素敵な音が響く。
次に、レの音を鳴らす。
綺麗な音だ。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ…ド。
綺麗につながる。
楽しい音。心踊る音。余韻が、ある。
小学生の頃。
「音階…?」
「音楽の階段だよ」
マイクくんは、カナデに教えてくれた。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ…ド。
「ドレミファソラシがあって、繰り返すんだ」
「繰り返す?」
「ドから、上の音階のドに上がるんだ」
「上がるの?何、それ」
「下の音階もあるんだよ」
「え?え?わからない」
カナデは、頭が混乱してしまう。
思えば、昔から、この辺りでつまづいていた。
ミスだらけなのも、当たり前か。
「あの頃のままが良かった」
カナデは、静かにグランドピアノから離れた。
第2楽章 鍵盤に指を当てて
2年P組。
「ピアノのアイドル、石原ピリカだ」
「何て、美しいんだ」
「ピリカさまっ」
クラスの男子生徒が騒ぎ立てる。
金色の長い髪のお人形さんのような美少女。
石原ピリカ。16歳。
ピアノの天才。可愛い女の娘。
ピアノ部の定期演奏会のアイドルだ。
毎回、選ばれている。ピアノに愛された女の娘。
「…」
カナデは、下を向く。
ピアノを好きなだけ。才能はない。才能ゼロ。
必ずミスをする。音を外す。
「ピリカさんの家には、グランドピアノがあるんでしょう。防音室にあるの?」
「…そうです」
ピリカさんは、強気な態度で、楽譜を見ている。
「すごーい。この楽譜を全部おぼえてるの?」
「…当然です」
「うわあ。すごいぜ」
「すごい。すごい」
別世界。いや、別次元か。
もうピアノのレベルは、とてつもなく離れている。
同じ人間の女の娘なのに、何で、レベルに差がつくのだろうか。
ピアノ部の定期演奏会…出たい。
でも選ばれない。すぐミスをするから。音を外すから。
何度も、出たいと言う。でも、失敗する。
だって、いつまでも、小学生レベルだから。
「カナデちゃん…」
何で、失敗するんだろう。
「カナデちゃん!」
あ、マイクくんだ。
「カナデちゃんのピアノ。聴きたいな」
「え…」
「オレ、合わせて歌うから。ピアノ演奏してよ」
「ちょ…」
マイクくんは、自由すぎる。
クラスの注目が、カナデとマイクくんに移ってしまう。
「失敗してもいいじゃん。楽しもうよ」
「あ…、あの…」
「オレ、カナデちゃんのピアノに、合わせて歌うのが、一番楽しいんだ」
大きい声。歌い慣れてるから。声が大きくなる男の子。
マイクくん。
何で、そんなに優しいの。
カナデは、ピアノの下手な女の娘。
それがコンプレックスなのに。




