第1楽章 音はじめ
東音都。音タノ市。
ここには、音楽を楽しむ人たちが住んでいる。
多くは、聞く。
音を作る。歌う。奏でる。
その夢を叶えるのは、一握り。
数えるほどしかいない。
「レッツ ゴー レッツ ゴー」
「パラ ダイ ス」
手をつないで歩く。小学生。
女の娘。高橋カナデ。
男の子。亜門マイク。
学校の音楽の授業で習った『楽園のうた』の歌を楽しんでいた。
「ピアノで弾けたね」
「大声で歌ったよな」
「あははは」
「ははは」
顔を合わせて笑い合う。
音楽って、なんて楽しいんだろう。
こんなにうれしい。
「アタシ、大人になったらピアニストになる」
「オレは、歌い手になる」
「大きいホールで演奏するの」
「オレは、大声で歌うよ」
「二人一緒がいいね」
「もちろん、一緒だよ」
笑い合った。楽しい時間。そんな昔もあったな。今は、もう無いけど。現実を知ったから。
第1楽章 音はじめ
音タノ市立オンプ高等学校。
2年P組。教室に、一人きり。
高橋カナデ。16歳。
黒髪の地味な眼鏡の女の娘。
昔のことを思い出した。気分が悪い。何、この最悪な気分。気持ち悪い。
こんなダサい高校生に、才能なんて、あるワケないじゃない。バカみたい。
何で、夢なんて見なくちゃいけないのか。叶うワケないじゃん。
「カナデ…」
うるさいな。誰、この声。
「カナデちゃん…」
ああ。マイクくんか。
「何。マイクくん。うるさいわよ」
「カナデちゃん。部活の練習に出ようよ」
「落ちた…」
「え」
「落ちたから、出れないのよ」
「何で」
「知らないわよ。毎回、落ちてるから、当然でしょ」
音楽は、才能のある人しかやっちゃいけない。
そう言うこと。
「マイクくんは、良いわよね。歌の才能があって」
亜門マイク。16歳。
赤毛のくせっ毛の男の子。
歌の才能があって、小学生の頃から、歌のコンクールに何度か出てる。なのに、勉強と両立できない理由でやめてしまっている。余裕がある。
帰宅部だし。ヒマ人。
「カナデちゃんのピアノは…?」
カナデのピアノ。
才能ゼロ。音外す。ミス。失敗だらけ。
何で、ピアノやってるのって疑問視される。
ただ好きでやってるだけだけど。理解されない。
ミスしないで、綺麗に演奏できない人はやっちゃいけないのだ。バカにされるのだ。
「ミスしても、音楽を好きなら定期演奏会に出れるよ」
「出れないわよ。バカにしないで」
カナデは、あきらめている。
ピアノは、好きだ。大好きだ。でも、上手くならない。
頭の中では、綺麗に演奏している自分がいる。
コンサートホールを満員にして演奏している。
でも、それは、現実じゃない。空想だ。
「オレは、カナデちゃんのピアノ好きだよ」
「あら、そう。無意味よ」
「心がこもっているじゃん。楽しんでるじゃん」
「…」
「ミスしたってあきらめないじゃん。すごいよ」
「…だって、絶対ミスするの。無理なの」
カナデは、一筋の涙を流した。
本当は、純粋に音楽を大好きな女の娘なのだ。




