2ー1
遠藤さんをかくまう生活になってから二日目の朝。
勝手知ったる冷蔵庫とばかりに、遠藤さんが朝食を作ってくれました。
感動です。
【今日、買ってきてもらいたい食材書いたので、お願いしていい?】
「いいですよ。遠藤さんはお料理が得意なんですね?」
【下手の横好きってやつかな?】
ノートにそう書いた遠藤さんは、やわらかく笑った。声はまだ出ないけれど、気持ちは落ち着いているみたいで安心しました。
それにしても食材、すごい。
【たくさんあってごめん。本当なら、俺が買いに行きたいところだけど、バレたら困るから。いいかな?】
「かまいませんよ」
わたしがそう答えると、遠藤さんに頭をなでてもらった。
大変です。キュンな気持ちが大暴走なのですっ!!
「うわぁ。頭をなでられるなんて、何年ぶりかしら? ありがとうございます、遠藤さん」
【今の俺にはこれくらいしかできないから。嫌だったら辞めるけど?】
「そんな、嫌だなんてとんでもないです。でも少しだけほわほわしてしまいます。恥ずかしいけど、嬉しいのです」
そう、男の人にここまで優しくされたのって、初めてかもしれない。
ゆうべ、寝ぼけた遠藤さんに足首をつかまれてしまいました。
緊張して座り込んだら、遠藤さんが目を覚まして、ごめんって声が出ない中で言われました。
驚きました。
【昔のカノジョと間違えた。ごめん】
万年筆で丁寧にあやまられたことで、そのカノジョさんのことがまだ忘れられないのだなとわかってしまいました。
ええ、わかっています。
経験豊富ではないにしろ、わたしだって二十五歳です。恋愛経験はあります。
忘れられない恋の記憶も、なんとなくですが、わかるような気がするのです。
遠藤さんは、どんな気持ちでそのことを思い出したのでしょう?
ひょっとしたら、ストーカー被害が元で、カノジョさんとお別れになったかもしれませんし。
そうだとしたら、悲しいです。
遠藤さんには笑っていて欲しいのです。
夕べはそれから動画サイトで『猛獣野郎共』のミュージックビデオを観ましたが、噛み付くように歌う遠藤さんが、時折にやりと口を曲げて笑う場面がありました。
その時、わたしの胸はとくりと響いたのです。
遠藤さんの心の中には、きっとまださっちゃんがいるのです。だからこそ、笑っていて欲しいのです。
つづく




