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やりたかないのに陰陽師弐  作者: 辻本 真悟
第二章:不可視の包囲網
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第七話:観測者の網(ミッシング・パッチ)

「……オムライス、じゃなかった保憲、なんでお前ら、あんなしけたチンピラの行方を探してんだよ。暇なのか?」


 俺がオムライスを喉に詰め込みながらボヤくと、保憲はメロンソーダを一口飲み、銀縁メガネを冷たく光らせた。


「安倍くん。……僕は現役総理の麗子さんから、藤原の残党が神戸に潜伏しているからどうにかしてね。というオーダーを受けて調査をしていたんだ。有世くんと一緒にね」


 保憲の言葉に、俺の咀嚼が止まった。

 藤原の残党――土蜘蛛の時にデリートし損ねたシステムのゴミ。奴らは俺と道満を再び捕らえ、呪力の「電池リソース」として再利用し、お家再興を図ろうと画策していた。だが、奴らも馬鹿じゃない。観測の結果、俺たちの出力が規格外チートすぎて正面突破は不可能だと悟り、神戸の街中に「バグ」をバラ撒く戦術に切り替えた。


 それを偶然、あるいは必然的に拾い上げたのが、あの野崎だった。


「……野崎は今朝、山本組の親分と橋本さんに昨夜の件を自慢げに話したそうだよ。今度一緒にみかじめを取りに行きましょう、とね」


「そうなんです。それで今、山本組の組長さんと若頭が揃って謝罪に来ている状況です」


 なぁ、あんたはどう思う?

 子の不始末を親分と兄貴分が責任を取りに謝りに来るって。

 ……俺かい?俺なら言わないね。そんな情けない話……。


 つまりは親と兄貴と一緒にいけばどうにかなると思い昨夜の一件を報告した。

 だが、返ってきたのは怒声と拳だった。シュン兄の店が「聖域」であることを知る山本組にとって、野崎の凶行は組織を揺るがすバグでしかない。ボコボコにされ、「ヤクザが一般人にビビってどうすんだよ!」と怒鳴り散らしながら組を飛び出した野崎。


「その『負の感情』が臨界点に達した瞬間、有世くんがハッキングした防犯カメラが捉えたんだ。彼が路地裏で、藤原の残党が仕掛けた『罠の一つ』を拾う姿をね」


 有世が震える手でタブレットの映像を見せる。

 野崎の手には、禍々しい黒いパッチのような呪物が握られていた。それこそが、無知なチンピラを本物のクズに書き換える(アップデート)為の最悪の外部デバイスだった。


「……やりたかないねー、本当に。……それで、そのバグを拾ったおじさんは今どこにいるんだ?」


「それがね、いないんだよ何処にも。先程、消失ロストした」


 保憲が、氷の溶けきったメロンソーダを見つめたまま、淡々と告げた。

 有世のハッキングも、保憲の観測網も潜り抜け、野崎というデータがシステムから完全に消失ロストした。


 ……俺達は嫌な予感しかしていなかった。


 なぁ、あんたならどう思う?

 ただのチンピラの逆恨みが、藤原の残党というシステムエラーと結合して、取り返しのつかない悲劇のコードを書き始めようとしているんだ。


 俺の右手の指先が、その「見えない死角」を検知して、激しく震え出した。

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