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やりたかないのに陰陽師弐  作者: 辻本 真悟
第一章:琥珀色の日常
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第二話:ヒート・ナイト・ステイ

「……はぁ。やりたかないねー。なんでお前らまでここにいんねん」


 俺がシュン兄の出してくれた冷えたビールに口をつけた瞬間、バー『あか』のドアが勢いよく開いた。

 流れ込んできた熱気と共に現れたのは、黄金色の氣を無駄に撒き散らしている博雅と、なぜか不機嫌そうに頬を膨らませた道満だった。


「よう、晴明! お前だけシュン兄のところで美味いもん食うなんてズルいぞ! シュン兄、俺にも喉が鳴るような最高の一杯、頼む!」


 博雅が当然のように俺の隣に陣取り、カウンターを叩く。あいつはシュン兄の作る「最高の一杯」なら、中身が何だろうと信じ切っているんだ。

 その後ろで、道満が俺をジロリと睨みつけながら、シュン兄に会釈した。


「……こんばんは、シュンさん。この阿呆がまたツケで迷惑かけてるって聞いたから、連れ戻しに来たんやけど……」


 カウンターの奥、シュン兄が磨いていたグラスを置いてガハハと笑った。


「よう、ヒロ、ミッちゃん。賑やかでいいじゃねぇか。ミッちゃん、お前……その姿、またハルにリクエストでもされたのか? 相変わらず可愛いじゃねぇか、その『もりかす』スタイル」


「ち、違います! これは修行……精神鍛錬なんですってば!!」


 道満――ミッちゃんが顔を真っ赤にして反論する。

 シュン兄はそんな彼女を兄貴分のような優しい目で見守りながら、手際よく二人の分のグラスを用意し始めた。博雅の前には、氷が音を立てる透き通ったカクテルグラスが置かれる。

 

「ハル、ヒロ。……お前ら、ミッちゃんをあんまり困らせんなよ。女はな、大事にしねぇとバチが当たるぞ」


 シュン兄はそう言って、カウンターの隅で微笑んでいる澪さんを愛おしそうに見つめた。

 最強の鬼と、その最愛の女性。そして、一年前のバグを乗り越えて集まった、出来損ないの陰陽師たち。

 ここにあるのは、間違いなく俺たちが守りたかった「平穏」そのものだった。


「……なぁ、ハル。お前ら、あの日から少しは『マシな今日』を生きられてるか?」


 シュン兄が、ふと真面目な顔で聞いてきた。

 俺は冷えたグラスの結露を見つめ、震える指先を隠すように拳を握った。


「……言いかないねーけど。こいつらがうるさーて、寝てる暇もないわ」


「そうか。……ならいい」


 シュン兄は満足そうに頷くと、店の外――暗い路地裏の方へ、一瞬だけ鋭い視線を向けた。

 

 その時の俺は、まだ気付いていなかった。

 シュン兄が、俺たちには見えない「人間の汚泥」を、その強大な力で密かに弾き飛ばし続けていたことを。

 そして、その防壁が、もうすぐ最悪のバグによってオーバーロードを迎えようとしていることを。

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