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やりたかないのに陰陽師弐  作者: 辻本 真悟
第三章:臨界点の慟哭
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第十二話:深江の死角、あるいは暴力の連鎖

「……おい、山本。橋本。俺の顔、そんなに舐めやすく見えるか?」


 山本組の事務所。組員たちの凍りついた視線の先で、泰臣が橋本の襟首をへし折らんばかりに掴み上げ、至近距離で凄んでいた。ブチギレ状態の親父から放たれる「圧」は、日本最大のヤクザの組長と若頭を、借りてきた猫のように萎縮させている。


「申し訳ありません、安倍さん! 若い衆を総動員して野崎を追わせてはいるんですが……どうにも、情報がバグってるというか、掴めねぇんですわ!」


 若頭の橋本が脂汗を流しながら弁明する。一般人を、それも「聖域」であるシュン兄の恋人を巻き込んだ。野崎の暴走を止められなかった彼らの立場は、今や絶望的だ。


「……はぁ。やりたかないねー、本当に。ヤクザの情報網が呪術システムに負けてどうすんだよ」


 俺が投げやりに吐き捨てたその時、頬を冷たい風が掠めた。実体を持たない「つむじ風」の姿で戻ってきた太陰が、俺の耳元で不吉なノイズを響かせる。


『……深江浜ふかえはまのほうに、卑しい、腐った風が吹いてる。……人間の業と、古い呪詛の混じった、ヘドロみたいな匂い』


「……深江浜だと?」


 俺がそれを全員に伝えると、若頭の橋本が弾かれたように声を上げた。


「深江……! そう言えば、野崎の死んだ親父がやってた鉄工所の跡地が、確か深江の埋め立て地にあったはずですわ!」


「……決まりだな。シュン兄、行けるか」


 俺が隣を見ると、シュン兄は何も言わず、ただ拳を血が滲むほど握りしめていた。一行は再び事務所を飛び出し、朝の光が刺し始めた神戸の街を、深江の工業地帯へと疾走する。


 助手席で道満が、再び有世へと回線を繋いだ。


「有世、ウチや! 今から深江に向かう! 会長に伝えて、深江浜一帯の監視カメラとNシステム、全部フルアクセスで解放して! 奴らを、一ミリも逃がしたらあかんで!!」


 なぁ、あんたならどう思う?

 死んだ親の工場跡。面子を潰されただけのチンピラ・野崎を、藤原の残党がバラ撒いた「バグ」で上書きし、澪さんを攫わせた。

 

 奴らの狙いは、俺と道満を再び「電池」として引きずり出すこと。そのための最悪の人質トリガーとして、澪さんが選ばれたんだ。


 俺の右手の指先が、埋め立て地の生臭い海風に混じる、不穏な『霊的干渉』の予兆を捉えて、狂ったように震え出した。


「……やりたかないねー、ホンマによ……。シュン兄、スピード上げろ!」

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