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Unknown

〈AWBI〉

ガイアスが管理する脳波・特殊能力研究機関。


〈ノクス:グレイン生体再編局〉

スコーラオ率いる再生医療研究機関。

「昨日のうちに“整理”させといて良かったですね」


男の助手が安堵したように胸を撫で下ろした。


「エルナスのことだから、近いうちに来るとは思ってたけど……早かったよね。本当に真面目だよ」


スコーラオはそう言うと、ルシエル因子のデータを指先で弾くように確認した。


「研究ログと痕跡は、全部“通常実験扱い”にしてある。まさか昨日の潜入にリングを使ったとは思っていないだろうな」


小さく笑う。


「しかし……セリューには気付かれていない。高能力者の感知網にも引っかからないんだね、この因子」


「それとも……白い影の方に気付いた?」


スコーラオは、何もない空間へ視線を投げた。


「……まさか、付いてきたりはしてないよね」


女助手が、困ったように眉をひそめる。


「……どうされました?」


「いや。何でもないよ」


スコーラオは楽しそうに目を細めた。そして、再びデータへ視線を落とした。


ルシエル因子のデータには、

《Unknown》とだけ記された解析不能領域が存在していた。


「人類の突然変異。環境ストレスによる活性化か?」


AI戦争と人類の歴史を脳裏に描く。


「特殊能力者の発現……宇宙人が関与してたりして」


研究室には、機械音だけが静かに響いていた。


スコーラオは、その発想を自分で鼻で笑った。



「……どこにいった」


ガイオスは、周囲の戸棚や観測機器を、片っ端から開けて探していた。

天井に貼り付いているのでは――。

そんなあり得ない考えまで頭をよぎる。


「ガイアス所長……?」


中核研究者が、恐る恐る声をかけた。


「何でもない」


そう言うと、昨日のセキュリティデータを確認する。


何も写っていなかった。


「落とした?

いや、違う。

私は確かに“ここへ”入れた」


「……まさか、盗まれた?」


「いや、ありえない。あの部屋は、私しか入れない」


沈黙。


次の瞬間。


研究室に、押し潰したようなガイアスの絶叫が響いた。


「……っ、うあああああ!!」




カナタは、自室でエルナスから受け取った本を開いていた。


「AI人格保存理論――」


カナタの視線が止まる。


初めて見るはずの単語なのに、

意味だけは自然に理解できた。


まるで、誰かに教えられていたみたいに。


懐かしい。


そう感じた理由だけが、わからなかった。


「リエルは、旧王朝の王族の子どもの前にも現れた。

まるで、偶然鉢合わせてしまったかのように――」


「執事は日記に記す。あの眼差しはAIのそれではなかったと」


カナタはページをめくる。


「……リエルは、慈悲深い」


なぜか、その一文だけが胸に残った。


そこには挿し絵があった。


「あ……」


カナタの指が、絵の端で止まる。


「ウサギの……キーホルダー」



(第九十八章・了)


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