生体再編局
〈アレイシア波動生体研究局/AWBI〉
カナタの父・ガイアスが所長を務める研究機関。
脳波波動や特殊能力理論を研究している。
一部では、“ルシエル因子”を管理しているとも噂されている。
〈ノクス:グレイン生体再編局〉
スコーラオが所属する再生医療研究機関。
“どこまで失われても再現可能か”を目的とした実験を繰り返している。
ノクス:グレイン生体再編局。
そこは、コロニー・リオンド郊外の森を切り開いた隔離区に位置する。
二階建ての広い施設。隣には、関連施設がいくつもある。
「49%拒絶反応確認しました」
スコーラオは、白衣の袖を少しまくると、淡く発光する因子片を慎重にシャーレへ移した。
「特殊能力を発現させる、生体進化の根源因子……」
女助手は、震える声で呟いた。
男の助手は、巨大水槽に浮かぶ切断体へ視線を向ける。
「人為的に作られた因子じゃない。 元々存在した突然変異を、人類側が解析してるだけだ」
「……アレイシア研究局が、これを使って何もしてないとは思えませんね」
スコーラオの瞳から、笑みが消えていた。
「ルシエル因子の微細構造物を確認する」
◇
新人の助手は、顔色が思わしくない。
毎日どこからともなく送られてくる検体。
時には、スコーラオ自身が死にかけた検体を運び込むことさえあった。
休憩時間、食事のために用意された簡易トレーの人工肉を目の当たりにして、吐き気が込み上げる。
「おい、新人大丈夫か?」助手の男が後ろから話しかけた。
「え、あ、はい」
皆、平然と業務を遂行する。
僕は、バイオテクノロジーの発展と、再生医療の行く末に貢献したくて志願した。
「……」
ヴァルディス家の元王子、スコーラオ様がここの創設者……まさかこんなやばい人だったなんて。
「……どうした新人」女の助手がクッキーを持ってきた。
「ここ辞めたら殺されますか?」
「まさか」女は、笑った。
◇
セリューは、王宮直属監査官として研究局へ入った。
「王命による確認です」
白く無機質な通路を、セリューは静かに進む。
「形式上は視察ですが、研究記録は全て確認させていただきます」
助手たちの空気が、わずかに張った。
「やぁ、セリュー。わざわざ来るなんて、王の護衛は大丈夫なの?」
奥から現れたスコーラオが、柔らかく笑う。
「リングを全解除しています。何かあれば、すぐエルナス様の元へ戻れます」
セリューは、腕のリングへ軽く触れた。
「まぁ、そうだよね」
スコーラオは、視線を細める。
「……でも、全解除って身体に負担だろう? あまり無理しないでね」
そう言うと、スコーラオは白衣の裾を揺らしながら施設の奥へ歩き出した。
「ここが実験室だよ。ちゃんと研究してるでしょ?」
薄く笑いながら、顕微鏡へ視線を落とす。
「……」
セリューは、室内を静かに見渡していた。
薬品棚。 培養装置。 そして、奥に並ぶシステムフィールド隔離区画。
セリューが視線を向ける。瞳が一瞬淡く光る。
「強力なフィールドが張られている部屋がいくつかありますね」
「……」
「中を直接確認できますか?」
「……目ざといね。ま、全解除でスキャニングされたらお手上げだよね」
顕微鏡を覗いたまま、スコーラオは小さく笑う。
そして、不意に話題を変えるように顔を上げた。
「ねぇ、リング全解除ってどんな感じなの?」
システムの駆動音が、どこか心音のように響いていた。
「私は十段階外しただけでも、久しぶりすぎてコントロール失いかけたよ……冗談だけど」
セリューの沈黙が続いている。何かを読み取っているかのように。
「……」
スコーラオの笑みが、わずかに薄れる。
「どうかした?」
セリューは、静かに床下へ触れた。
「この地下空間に、多数の“生体反応がある”」
僅かに、施設の空気が止まった。
(第九十六章・了)




