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言葉の手前


「オッドー中佐? 聞いておられますか?」


「あ、ああ……すまない」


閉ざされた軍会議室。


重苦しい沈黙の中、 ひとりの将校が低く口を開いた。


「我々は、タシト・レヴァントを全力で消す。異論はないな?」


「……了解した」


そう答えながらも、 オッドーの意識は別の場所へ向いていた。


――私が、タシト・レヴァントに消されるのが先か。


ただ、あの男が疑う通り、オルデン・コアは何かを隠している。


そして最近になって現れた、 “存在するはずのない高能力者”。


しかも、数値は安定していない。


普通ではあり得ない。


――どこにいる?


オッドーの脳裏に、 得体の知れない不安が広がっていく。


その高能力者は――



――私は、タシト隊長の婚約者としてここにいる。


なのに……。


「……“タシト少佐”のこと、どう思っているの?」


ふいに、 エルナスの穏やかな表情が脳裏をよぎる。


――嘘の婚約者だと、気づかれてしまっただろうか。


カナタは、 エルナスに本当のことを話してもいいのではないか―― そんな考えが、少しずつ浮かび始めていた。


川原で話した時も、 不思議なくらい自然に言葉が出ていた。


冷静で、優しくて、 人の話を最後まで聞いてくれる。


――自信のない私に、護身術まで教えてくれた。


そんなエルナスなら、 本当のことを話しても、 きっと否定せずに協力してくれる気がした。


カナタは、王宮で用意された部屋を静かに出た。


扉のすぐ近くには、 年配の執事が静かに立っている。


「どうされましたか?」


「あ、あの……エルナスに、お話があって……」


「かしこまりました」


執事は穏やかに一礼すると、 腕のリングへ短く通信を入れた。


「エルナス様は、間もなく来られます」


「あ……ありがとうございます」


カナタは、小さく頭を下げる。


執事の表情は変わらない。 だが、その落ち着いた所作が、 かえって“王宮”という場所を意識させた。


――エルナスは、“王”なんだ。


今さらのように、その事実が胸に落ちる。


わざわざ呼び立ててしまって、 本当に良かったのだろうか。


そんな迷いが、 静かに胸の奥へ広がっていった。



扉の向こうから、足音が近づいてくる。


規則正しく、それでいて急がない足取り。

やがて、静かに扉が開いた。


「待たせたかな、カナタ」


正装を崩したエルナスが、穏やかな表情で部屋へ入ってくる。


「あ……」


カナタは慌てて立ち上がった。


「す、すみません。お忙しいのに……」


「構わないよ」


エルナスは、柔らかく笑う。


「君の方から、私を呼ぶなんて初めてだな」


その言葉に、 カナタの胸が少しだけ詰まった。


――やっぱり、謝ってでも帰ってもらった方がいいかもしれない。そんな弱気が、一瞬よぎる。


だが。


「……話って?」


促す声は、どこまでも穏やかだった。


カナタは、ぎゅっと指先を握る。


「私……」


喉が、うまく動かない。


「エルナスに、伝えなければならない事が……」


その先の言葉が、喉で止まる。



(第九十一章・了)


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