変動
「……なぜ、スコーラオが」
タシトの額に、じわりと汗が滲む。
タシトは、王宮外周の監視地点から静かに身を引いた。
気配を残さぬまま。
◇
朝の廊下。
正面から歩いてきたヨガサを見つけ、プラス先生は軽く手を上げた。
「今日もちゃんと登校してるな!先生は!」
「おはようございます」
ヨガサは、ぺこりと頭を下げる。
「どうだ?ヨガサ」
プラス先生は、どこか気にした様子で尋ねた。
「はい。不思議です。色が戻りつつあります」
「そうだろ!」
プラス先生は、満足そうに胸を張る。
「ただ最近は、調子が悪くて、あまり見えないんです」
「そうなのか?」
頭をかくプラス先生。
「ただ――調子が悪いだけなのか、それとも、誰かに移ったのか」
「移る?」
「はい。よくあることです。 ……“運命”が移ることは」
「また怖い話の続きか?」
後ろから現れたソードが、半ば茶化すように口を挟んだ。
◇
軍本部。
「……数値が、安定しない?」
オッドーは、端末の光を見つめた。
モニター上には、複数の高能力者の波形データが並んでいる。
最近になって現れた、不自然な変動。
何かと干渉しているのか。それとも――レベルそのものが定まっていないのか。
「……軍が、気付かないとでも思っているのか」
低く呟く。
その時だった。
「最近、ずいぶん熱心ですね。オッドーさん」
背後から声が飛ぶ。
オッドーは、反射的に端末を閉じた。
「特殊部隊のやつらを見返しておかないとね。パワーバランスってやつですよ」
笑って誤魔化す。
だが、その通信回線は、オルデン・コアから極秘に取得した上位権限パスワードで接続されていた。
人目を避けるように、オッドーは人気のない通路へ入った。
再び端末を開く。
その瞬間――
端末画面に、見覚えのない表示が浮かぶ。
【不正アクセスを検知】
「――っ」
次の瞬間、回線が強制遮断された。
さらに。
画面には、オルデン・コア最高権限コードが表示されていた。
「……逆に、監視されていたのか」
背筋が冷える。
◇
軍用エレベーターの扉が開く。
その向こうから現れた人物に、オッドーの喉が強張った。
「……タシト少佐」
周囲には、まばらに人影があった。
だが、タシトは気にする様子もなく、そのまま横を通り過ぎようとした。
振り向いたオッドーの口が、震えながら開く。
「あんたの知りたいことは……何もない!」
複数の視線が、一斉に集まった。
タシトは足を止める。
「……そうか」
それだけを残し、タシトの背中は軍本部の奥へ消えていく。
オッドーは、額に滲んだ汗を拭えなかった。
――あれは、本当に人間なのか。
(第九十章・了)




