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反転する歴史


「一応オルデン・コアへ通達する」


エルナスは、窓ガラスに映るスコーラオの姿へ視線を向けた。


「あんまり嬉しくないけど……仕方ないよね」


スコーラオは妖艶に笑い、

口のつけられていない紅茶を勝手に口へ運んだ。


「そうは言っても今の世界システムじゃあ、

王位は、世界システムへ干渉しない程度の王族が継ぐことになってるからね。実際には私には無理な話なんだよね」そう言うと腕のリングを目で追った。


「……世継ぎ候補としてもカナタちゃんなら周りも納得するだろうに」不敵な笑い。


「……どうして、それを」


「エルナスは、そう言うのどうでも良かった?」


エルナスは、返す言葉を失った。


スコーラオは、答えを待つこともなかった。


それが余計に、見透かされている気がした。



スコーラオを見送ると、セリューは一歩下がり、扉へ向かう。


「……スコーラオに関する研究局の報告は、後で必ず上げておいてくれ」


エルナスは紅茶に視線を落としたまま、静かに声を落とした。


セリューが部屋を後にすると、 書庫にはエルナスと執事だけが残った。


「……タシト少佐との婚約も、案外時間の問題かもしれないな」


そして、カナタの存在が脳裏をよぎる。


「エルナス様、余談ですがこちらの古文書、

カナタ様がとても興味を示しておられました」


「ん?」


それは鍵のかかったショーケースの中の本。


「……リエル・資料」


エルナスは、執事にケースを開けさせ本を手に取る。そして、ページを開いた。



―惑星グランディア―


市街地から隔てられた高地に建つ、

高度技術国家の中でも限られた者しか立ち入れない研究施設。


「……リエルはどこへ行ってしまったんだ?」


二人の研究者は、生きた心地がしなかった。


ビルから放り出された男は

未だに、時折足が震える。


そこへ助手がやってきた。


「タシト少佐の血液検査の結果が出ました」


「……」

二人の研究者は、無言で顔を見合わせた。


「……これが高能力者の血液か」


恐怖を味わったはずなのに、 研究者としての興味は消えていなかった。


「これは?――染色体異常?」


「特殊能力者だからか?」


「いえ……これは特殊能力というより、 高放射線環境への適応反応に近いかもしれません」

助手は、さらに資料を渡す。


「それ以外の解明は、まだ時間がかかりそうです」



王宮の書庫では。


AI戦争――アンドロイドと人間による戦い。

アンドロイド優勢だったが、終わらせたのはウサギの垂れ耳を模して造られた、 ひと型アンドロイド――リエル。


脅威のAIと呼ばれる理由は、大衆心理に依存している。

今では、特殊能力者が世界を救ったことに書き変わっている。


「衛星メア・フェールに眠るとされるリエルは、 人類の敵ではなかった――か」エルナスはページをめくりながら、わずかに眉間の皺が寄る。


「……リエルは、衛星メア・フェールに眠っているのか」


メア・フェールで、タシト少佐とカナタに偶然出会った時のことを思い出していた。


「“エネルギー系の放出を嫌う”が、リエルの強さは人類の破壊兵器を越えると推測され、能力は解明されておらず出所も不明」


エルナスは、静かに本を閉じた。


「……これでは、我が世界と反対ではないか」



(第八十八章・了)


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