取り引き成立
「……以前も話した通りです」
エルナスの声音は冷たい。
「そうだろうと思ってさ、取り引きしにきたよ」
「取り引き?」エルナスは、怪訝そうにスコーラオを見た。
カナタとユウナギは、二人のやり取りを黙って見守っていた。
「ここからは大人の話」
スコーラオは、人差し指を口に当ててウィンクした。
◇
ユウナギは、カナタと分かれプラス先生の元に帰ってきた。
「どうだった?カナタに会えたか?」
「はい。プラス先生ありがとうございます。彼女は変わりありませんでした……」
カナタとエルナスの距離感が、妙に胸に引っかかった。
焦りにも似た感情を抱えたまま、ユウナギは王宮を振り返る。
まさか、スコーラオが王宮よりだったとは。
ユウナギは、帰る車の中でタシトの立ち位置の危うさを考えていた。
タシト隊長は、本当は何からカナタを守ろうとしていたのだろう――。
――もし、王宮からカナタを守りたかったのだとしたら、スコーラオから?
それとも、エルナスのカナタへの好意的な何かを察知してエルナスから?
何のために?
タシト隊長は、カナタの一体何なのだろうか……
◇
「セリューもひとりでは休暇も取れないだろうから、私がいつでもエルナスを護衛してあげるよ」
それが、スコーラオの提示した取り引きだった。
「……信用できるわけないでしょう」
セリューが思わず口を挟む。
「なんで?私はエルナスに死なれては困る。王位が回ってきたら困るからねぇ」
「……」エルナスは、黙って聞いている。
「こう言っちゃ何なんだけど、君より強いからねぇ。 リングを全て外したら……」
「それが危険だと言っているのですよ」セリューは、緊張した表情。
「だから、なんで? 私がエルナスに危害を加えるメリットなんてないじゃーん」
「先のことは誰にもわからない……。セリューの言葉だろ?」エルナスがようやく口を開く。
どちらにも取れるエルナスの言葉。
「私は、まるでお守りされてる子供だな」
エルナスは苦笑混じりにそう言うと、窓辺まで歩いた。
「全てリングを解除するつもりはない。
十までならその取り引きを考えても良い。
ただし、研究のための制御解除は、護衛を交代した日数分だけだ」
「エルナス様!」セリューは、思わず声を張り上げた。
「……たまには休め、セリュー」
「取り引き成立」
スコーラオは、エルナスへ渡したクッキーを一枚つまみ、口へ放り込んだ。
「へぇ、こんな味だったんだあ」
(第八十七章・了)




