乱入者
「……お茶でも用意させようか」
空気を壊したのは、エルナスだった。
「……」
ユウナギは、カナタを見た。
(――突き放された?)
カナタは、目が泳いでいた。
◇
プラス先生は、紅茶を飲み終え、重厚感のある深い木目調のテーブルに置いた。
その時だった。
応接間の前を、一つの影が横切る。
プラス先生は、思わず視線だけを上げた。
品のある佇まい。 だが、その横顔には、得体の知れない気配がまとわりついている。
背筋が、ぞくりと粟立った。
(……誰だ、あれ)
その後を、セリューが遅れをとって歩いていた。
「スコーラオ殿お待ちください」
◇
エルナスが執事を呼ぶと、 ほどなくしてお茶が運ばれてきた。
「……一つ、聞いてもいいかな」
「“タシト少佐”のこと、どう思っているの?」
エルナスは優しい表情で問いかけた。
「それは……」カナタは、言葉が出ない。
長い沈黙が続いた。
「あれぇ?どうしたのみんな?」
突然、場違いなほど明るい声が響いた。
「え?」
ユウナギが振り返る。
その直後。
コンコン――と、今さらのように扉が鳴った。
「あ、順番逆だったねぇ」
現れたスコーラオは、 まるで気にした様子もなく笑っていた。
「え? 何でいるの!?」
スコーラオは、ユウナギとカナタを交互に見た。
「カナタちゃんにユウナギくんじゃないか~。ずっと会いたかったよ~」
スコーラオの乗りは、幾分掴み所がない。
「……君たちは、面識があったのか」エルナスが戸惑う。
「知り合いも何も、親友だよね?」
スコーラオは当然のように、カナタの肩へ腕を回した。
「え……?」
今度はカナタが目を丸くする。
「……親友だって?」
エルナスでさえ、わずかに目を細める。
前王朝唯一の生き残り―― 王位を捨て、研究者となった特殊能力者。
それが、スコーラオ・ヴァルディスだった。
スコーラオは、 カナタの髪へ視線を落とした。
「……少し見ない間に、大人になったねぇ」
その声音に、 ユウナギの眉がわずかに動く。
「あ……ありがとうございます」
カナタは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
スコーラオは、手に持っている袋をエルナスに渡した。
「これって……」
スコーラオの調子に、エルナスのリズムが狂う。
「そう、助手が焼いたクッキー。そろそろなくなりそうだと思って持ってきた」
スコーラオは、 そこでふっと考えるように目を細めた。
「あ、あれ半年前か。残ってたら腐ってるよね」
くす、と小さく笑う。
「で、そのタシト少佐って……」
スコーラオの声が、 わずかに低くなる。
「……どんな人なの?」
ユウナギの鼓動が大きく波打つ。
――カナタに話させてはいけない。
そんな直感が走った。
「カナタの婚約者です。そして、僕たちの教官でもあります」
「……え?カナタちゃん、婚約してるの!?」
スコーラオは少しの間をとって何かを考えていた。
「……お兄さん、ちょっとショックなんだけど」
「あの、スコーラオ殿。今日は何をしにおいでになったのですか?」エルナスがようやく口を挟む。
「あ、そうだった。これ、見せに来たんだ」
「……これは?」
そこには、不思議な線が乱雑に書かれたデータが写っていた。
「やっぱり私のリングを解除してくれないと研究が進まないんだよね」
(第八十六章・了)




