表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
85/92

書庫の再会

「……会いたかった。ユウナギ」


エルナスは、わずかに目を見開いた。


「君とユウナギくんは、“ただ”の幼なじみ――そういう認識でいいのかな」


低い声が、静かに割って入る。


「え? あ、はい……」


カナタは、わずかに頬を染めた。


「……」


「……積もる話もあるだろう」


エルナスは、その感情を表には出さなかった。


踵を返し、 執事と共に書庫を後にする。


扉が閉まる音が静かに響いた。


「カナタ……久しぶり」


ユウナギは、どこか照れたように笑った。


「ほんとだね。なんだか、すごく遠くまで来ちゃった感じ」


カナタは、書庫を見渡した。


高い天井。 静かな灯り。 積み上げられた古い本。

王宮の空気は、 自分の知っている世界とは、まるで違っていた。


「ここ、座ろう?」


近くのソファーへ腰を下ろす。


その瞬間、 触れた腕にユウナギの呼吸が止まる。


「……あ」


こんなことで意識するなんて、 今までなかった。


幼い頃は、 手を繋ぐことさえ普通だったのに。


「……似合ってるよ。その姿」


「……ありがとう。ユウナギも着替えたら、きっと王子様みたいだよ」


カナタは、少し笑った。


けれど、 ユウナギは笑えなかった。


「……ここの生活は?」


「うん。エルナスが優しくしてくれてる」


「……」


胸の奥が、わずかにざわつく。


「……あの人、昔から何故か私に親切でね」


「……そう」


短い返事のあと、ユウナギは静かに視線を落とした。


「敬称で呼ばないんだね。


――ラン友だから?」


「え? あ、うん」


カナタは少し慌てたように頷く。


「エルナスが、堅苦しいの嫌みたいで」


そう言って立ち上がろうとした瞬間、 手首を掴まれた。


「え……?」


振り返る。


ユウナギの手は、 わずかに震えていた。


「……信じていいんだよね」


「……うん」


その答えを聞いた瞬間、 ユウナギはカナタを引き寄せた。


「ユウナギ!?」


抱き締められる。


強く。 苦しいくらいに。


「……もう、“ただの幼なじみ”なんて嫌だ」



プラス先生は、居間で紅茶を飲んでいた。装飾が施されたティーカップ。


緊張している。……飲み方間違えてないよな。

周りには誰もいない。


ユウナギは、無事にカナタと会えただろうか。


そんなことを考えながら、 プラス先生は窓の外へ目を向けた。


蝶々が飛んでいた。


「珍しいな。青い蝶。あれは確か、アストレアの希少種だったな」



「ユウナギ……」


カナタも抱きしめ返す。


ケティオスの声が、 不意に蘇る。


(……その立場は、忘れないでください)


胸が、痛んだ。


「……っ」


カナタは、 反射的にユウナギを引き離した。


「ごめん、ユウナギ」


「え……?」


その時だった。


控えめなノックの音が、書庫に響く。


二人の肩が同時に揺れた。


「――失礼する」


静かな声。


扉が開き、 エルナスが姿を見せる。


カナタは、息を呑んだ。


ユウナギの熱が、 まだ腕に残っている気がした。


「……邪魔したかな」


責めるような声音ではない。

むしろ穏やかだった。


だからこそ、 逃げ場がなかった。


エルナスの視線が、 わずかにカナタの手元へ落ちる。


まだ指先が震えていた。


「……」


王は、何も言わない。


ただ静かに、 二人を見つめていた。


その沈黙だけが、 書庫の空気を張りつめさせる。



(第八十五章・了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ