再会の扉
――王のいる場所へ。
「こんにちは。ユウナギ・カーレンくん」
その声は穏やかだった。 だが、空気まで整えられるような響きがあった。
案内された先に、エルナス王は立っていた。
静かな威圧感。
視線を向けられただけで、空気が張りつめる。
――なのに、美しい。
「こんにちは。エルナス王」
「え、ユウナギ……面識あったのか?」 プラス先生は、声を潜めた。
「……戴冠式以来かな。どうぞ」
そう言うと、椅子にかけるよう手で促した。
膝の上で、指先に力が入る。
「カナタは元気ですか?」
「……君には、隠し通せそうにないね」
「なぜ、タシト隊長の元からこちらへ?」
「タシト少佐の住む居住区が被害を受けた」
「あの、スペースジブリが落下したニュースか……」プラス先生は、顎をさすった。
ユウナギは、 やはりタシトが狙われていたのではないかと感じた。
そうなると、ここにカナタがいる方が安全なのかもしれない。
――分かっていても。
「カナタに、会わせてください」
◇
王宮の奥にある書庫で、カナタは本を選んでいた。
「あの、このケースには鍵がかかっているのですか?」
「はい。王しか触れません」
本棚の横には、 厳重に管理されたショーケースが並んでいる。
年配の執事は、静かに説明した。
黒い背表紙には、 見慣れない古い文字が刻まれていた。
「……リエル・資料?」
「惑星アストレアにも昔、多くのアンドロイドが生活に溶け込んでいました」
「その中の一体が、“リエル”と呼ばれていたそうです」
「へぇ……特別なんですね」
「ええ。現存記録が極端に少ないのです」
執事は、ケース越しに本を見つめた。
「アンドロイドでありながら、慈悲深さを持っていたとも言われています」
「慈悲深さ……」
「基本はひと型ですが、特徴としてウサギの垂れ耳を思わせる頭部だったとか」
「……ウサギ?」
胸が、強く脈打つ。
理由は分からない。
けれど、その単語だけが、 妙に引っかかった。
「はい。卵から生まれた――という記録もあります」
「古い人間が知るのは、この辺りまでです」
「……ウサギのキーホルダー」
気づけば、言葉が漏れていた。
(この本……エルナスに頼めば、読ませてもらえるだろうか)
その時だった。
書庫の扉が、静かに開く。
振り返ったカナタの視線が止まる。
先に入ってきたのは、エルナス王。
その後ろに――
「……ユウナギ?」
息が止まりそうになる。
ユウナギは、 そんなカナタを見つめたまま、 言葉を失っていた。
――美しく着飾ったカナタ。 まるで、物語の中の姫君みたいだった。
「……カナタ」
「ユウナギなの?本当に?」
エルナスは、二人の再会を静かに見守っていた。 プラス先生は、応接間で待機している。
「……会いたかった。ユウナギ」
カナタから出た自然な言葉に、
エルナスは、わずかに目を見開いた。
(第八十四章・了)




