王の領域
王宮の廊下を歩く。
背後のざわめきは、まだ遠くに残っていた。
セリューも何も言わなかった。
「……」
エルナスは足を止める。
窓の外には夜景。
静かだった。
(あれしかなかった)
視線を伏せる。
(それでも、あれ以外の答えはない)
◇
「プラス先生、カナタの長期休暇って何ですか?」
――嫌な予感が、消えなかった。
夕方の事務室で、
ユウナギは、間を詰めた。
「……知らない。ただ遠いご友人から連絡が来た」
「遠いご友人?タシト隊長ではなくて?」
「そうだ。ただ、タシト隊長も承知している」
「ど、どういったご友人ですか?カナタに……そんな人、いません」
言いきるユウナギに、プラス先生は苦笑い。
「いつかのラン友じゃない?花束の……あ、すまん、適当に言った」
「……」
ユウナギは、近くにあった、椅子にもたれ掛かった。
「おい!大丈夫か?ユウナギ。顔色が悪いぞ」
「なぜ、タシト隊長は、カナタを手放したんですか?」口にした瞬間、自分でも違和感が走った。
――誰にもカナタを渡したくないのに。
タシト隊長とカナタは、深い関係にならない。どこかで、そう信じていた。
リュックに付いたウサギのキーホルダーが揺れる。
――でも、エルナス王は違う。
あの人は、
五年前から――同じ目で見ている。
ユウナギは、息が浅くなる。
「先生。俺、カナタのいる場所、分かるかもしれません。
今度は、俺に着いてきてくれませんか?」
「……ごめん。ちなみにどこ?」
「王宮です」
◇
「……気づけば、お前と動いてること多いな」プラス先生は笑って話す。
コロニー北東区――王宮が近づく。
警備体制が厳しくなる。
人の気配は、ほとんどない。
いくつものシステムの門を通過する。
リングのIDが瞬時に身元を判別した。
「どなたに用事ですか?」関門所で初めて人が出てきた。
王宮は、まだ先だった。
「えっと……」プラス先生は、ユウナギをみた。
「……エルナス王に、お逢いしたいです」
「……」
返事はない。
――わずかな間のあと。
「少し確認しますのでお待ちください」ようやく来た返事は確認の了承に対するものだった。
しばらくの間。
「お待たせしました。今から迎えがまいりますのでしばらくお待ちください」
「え?」プラス先生は、ユウナギをみた。
ユウナギの瞳は、揺れていなかった。
城までは、無人の車が行き来する。
到着すると二人は乗り込んだ。
「先生、迷惑かけたらすみません」
「ち、ちょっと、何をするつもりだ?」
「何も。ただ――エルナス王がどういう人か、確かめたいだけです」
「そっか。……先生は、お前の味方だぞ。何があってもだ」
「……先生」
「……今のはサービスしすぎたな」
先生は、視線を上へ逃がした。
頭上にそびえる、コロニー内の城。
王宮は、惑星アストレアの歴史を映した厳かな建造物と、最先端の融合だった。
「……本当に王に直接、会えるのかな。にわかに信じられん」
「あの人が王か?」
城の入り口を通る。装飾が美しい。
「いえ、似てますがセリューさんです」
「あ、そうだったな。先生緊張してるぞ」
「こんにちは、ユウナギくん。お久しぶりだね」
セリューが出迎えた。
「こんにちは、セリューさん」
「王がお待ちだよ。案内します」そう言うとプラス先生を一瞥してお辞儀した。
「……まじか」
――王が、待っている。
(第八十三章・了)




