観測誤差
軍の端末に、タシト・レヴァントの名を打ち込む。
表示された記録。
年齢、十五。
レベル推定、十二。
現在――レベル八まで解除。
任務成功率。
生存率。
身体診断は、別枠。
そして――
「……損耗、ゼロ」
その文字列だけが、やけに浮いて見えた。
喉が、鳴った。
◇
――遅れた。
あの一瞬。
掴めたはずの感覚を、取りこぼした。
「エルナス……」
タシトは、シャワーを浴びていた。
壁に拳を当てる。
鈍い音が、狭い空間に響いた。
◇
特殊能力値測定センター通称、
オルデン・コア。
いくつもの弧を描く巨大な柱。
整いすぎた構造は、
どこか無機質だった。
「オッドーさん、こんにちは」
「あ、どうも。今日は久しぶりに、特殊部隊の連中の能力レベルを確認しに来ました」
「……また、上で何か動いてるんですか」
「さあ……どうでしょう」
光るマップ図が弛い半球体で中央に設置されていた。
名前とレベルそして力関係、手をかざすとプロファイルが小さく表示される。
――特殊部隊の勢力図。
俺たちにとっては、
化け物の集まり――。
(タシト・レヴァント!?)
「タシト・レヴァントの数値、変わりました?」
「彼の初期登録値と、今では随分差があるようです。生まれた時の数値は変わらないはずですが……」
「……リング無しで制御しているのか」
「……怖いことを言わないでくださいよ。初期値の不具合ですよ」
「スコーラオ・ヴァルディスの最上位は変わりませんね」
「――建前では」
「……?」
オッドーは、端末エリアの奥へと足を向けた。
そこは静かで薄暗い。
床だけが、青白く光っていた。
「このデータ、少し見せてもらえるか」近くにいた、技術者に言葉を投げかける。
「え?あ、はい」
「このデータ、変わってないか?」
名前の記された名簿を見つめながら、オッドーは眉をひそめた。
「……仕様の範囲内です。問題ありません」
「……そうか?」
「ただ……」
隣の技術者が、若手の肘を強く突いた。
「それ以上はやめとけ」
「……」
(……増えていた?)
(――あり得ない)
喉が、乾いた。
天井が弓を描くその廊下を歩くオッドーの後ろ姿に、一人の男が呟いた。
「……一応、上に報告しておけ」
「……はい」
(第八十一章・了)




