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青の蝶

タシトは、ユウナギ、ソード、シャド、ルアナにヴェール・ガンを構えさせていた。


「ユウナギ、それではだめだ」


「ユウナギ、判断が遅れている」


「――見えていないのか」


「隊長、ユウナギに厳しくない?」

「恋敵だからじゃね?」

「……それ、最悪だろ」背後で、生徒たちが小声を交わす。


「よくある、出来るやつイビりじゃね?」


「しゃべりに来ているなら出ていけ」プラス先生が後ろから近付き注意した。


「見本を見せる。一回だけだ」

タシトがそう言うと、プラス先生にホログラムを最大難易度に上げるよう告げた。


敵か味方か判別できない影が出てくる。

スピードはいつもの3倍にも達していた。


タシトは、即座に構え、撃ち落とす。


時間が、わずかに遅れたように見えた。


無駄が、なかった。


次の瞬間、すべては終わっていた。


訓練施設は、愕然としていた。


「へ、へぇ~。……やるじゃん」


ソードは苦笑した。

――だが、その目は隠せていない。


「やば」「やっぱ少佐だし違うな、すげー」「かっけー」さっきまでの軽口は、消えていた。


そんな圧倒的なタシトを見る度に、

ユウナギの心は深く沈む。


――越えられない壁。


カナタが、遠ざかる。


「集中しろ、ユウナギ。油断が命取りだ!」タシトは、ユウナギの腕を――掴んだ。


いつものタシト隊長。なのになぜか少しだけ熱が入っているように感じる。


「……俺じゃなくて、他を見てください」ユウナギは、思わず申し出た。


ユウナギは、タシトに教えを請うことに、もう耐えられなかった。


「……やめだ。今日はここまでだ。あとはプラス先生、頼みます」


「え?」プラス先生は目を丸くする。


意外だった。


普段なら、何があっても途中でやめることはない。


――一瞬だけ。


視線が、どこでもない点で止まっていた。





カナタは、白くて丸いテーブルで本を読んでいた。エルナスは、そっと近付きカナタの前に立った。


「カナタ、今日は君と一緒に食事がしたい」


「え?」カナタは、本を閉じて見上げた。


「君も退屈してるだろう?

私で良ければ、話相手になるよ」いつかのエルナスの控えめな口調。


「……はい。退屈はしてませんが、

また一緒にいつかのランニング話をしたいです」カナタも微笑んだ。


庭の丸テーブルに料理が運ばれる。

近くの木々に、小鳥のさえずり。


「何だか、物語のお姫様みたいですね」


カナタは微笑み、前菜に口をつける。


「すごく似合ってるよ。

私も普段は、ここで食事はしないけれど、君がとても心地良さそうだから――今日は、外で食事したい気分になった」楽しそうなエルナス。


「私は、エルナス様に護身術を教えて頂いた、

あの時のお礼が何も出来ないままで……」


「固いことはなし。言っただろ?エルナスでいいって」


「あ、はい。エルナス……」


呼び方だけが、少しだけぎこちない。


エルナスは、優しく微笑んだ。


「後で、君に見せたいものがある」

わずかに間を置いた。


コロニーの向こう、ソレイユの光が傾く。

そこは、巨大な温室。


扉が開く。


青が、ほどけた。


群れをなした蝶が、温室から流れ出る。

暮れゆく光が、その羽を黄金に変えた。


「これは――」


「昔、教えてもらった。惑星アストレアで。

長旅をする青い蝶だ。群れは空に連なって――銀河みたいに見える。

観た者に、幸運を運ぶらしい」


「……」


美しい、と感じた。


理由は、わからない。


――なぜか、涙がこぼれた。


「絶滅危惧種だ。

……コロニーに適応するなんて、都合がいい。


――君に見せるために、増えたのかもしれない」


――その時。


塔の鐘が、十八時を告げた。


「え? ごめんなさい。よく聞こえなかった」


エルナスは、すぐには答えなかった。


青い蝶が、二人の間を横切っていく。


そして――


「……カナタ。 君を、タシト少佐のもとへ戻す気にはなれない」



(第七十九章・了)


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