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静かな保護

王宮の庭は、静かだった。


風が吹く。

花が揺れる。


どこまでも、穏やかだ。


「……きれい」


カナタは、小さく呟いた。


手を伸ばす。

花びらに触れる。


柔らかい。


美しい装い。

こんな格好は、人生で一度も経験がなかった。


「どう? 気分は」


エルナスが、確かめるように顔を覗き込む。


「……あの」


「ここは安全だ。安心していい」


先に答えた。

カナタの問いを待たずに。


「タシト少佐の居住区に危険が迫った。――一時的に、ここで保護する」


「……え?」


「学校には、しばらく休むよう手配した。安全が確認されてからだ」


「……」


その口調は、知っている彼のものではなかった。


――“王”の声。


何が起こったのだろう。


タシト隊長の居住区に危険。


胸の奥に、小さな引っかかりが残る。


自分が、タシト隊長の弱点だから――?


「あの……タシト隊長は」


言い切る前に、言葉が揺れた。


「無事、ですか?」


「……彼なら問題ない」


わずかに間を置いて、エルナスは答えた。


その視線が、一瞬だけ外れる。


「――優秀な男だ」


続いた言葉だけが、どこか遠かった。


「……」


カナタは、何も返せなかった。


「食事を用意させる」


エルナスは、話を切るように言った。


「何かあれば、あちらの者に」


視線の先。

年配の執事が、静かに一礼する。


それだけ言って、エルナスは背を向けた。


足音は、やけに静かだった。


残された空気だけが、わずかに重い。


(……何か、おかしい)


そう思ったはずなのに。


違和感は、まだ輪郭を持たない。



「……失敗した」


「タシトに気づかれたなら終わりだ」


「……問題ない。痕跡は残していない」


「考える時間を与えるな。次を撃て」



「カナタは、諸事情によりしばらく休学だ。戻ったら温かく迎えてやってくれ」


「何だろう、……妊娠?」ソードが目を丸くする。


「やめろ!」バーチが足を蹴る。


「めでてえ話ならいいじゃねえか!」


笑いが起きる。


――だが。

一番前の席のユウナギには、届いていなかった。


「昨日のニュース見た?」


「見た。サウスホールドシティ北2番地……ビル崩壊」


「何か落ちたって話だろ」


「スペースデブリって噂」


「……あの規模で?」


「皆、静かにしろ」


プラス先生の声で、空気が締まる。


「次の時間は、タシト隊長によるヴェール・ガンの指導だ。勉強になるからヴェール・ガン所持していない者も全員参加だ」



中央訓練施設の扉が、静かに開いた。


足音。


一定で、無駄がない。

タシトが入ってくる。


「――始める」


その一言で、空気が張り詰めた。


誰も、まだ気づいていない。


タシトの視線が―― 王宮とは別の方向へ向いた。



(第七十八章・了)


守られているはずの場所で、

何かが、確かにずれていた。


その違和感に、

まだ名前はない。

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