属さない場所
崩壊した居住区に戻るタシト。
タシトがシールドの波を瓦礫の中に放つ。
――いない。
カナタの感覚が、掴めない。
リングの追跡を確認する。
表示は、この座標。
「……違う」
わずかに、眉が寄る。
「“外されている”……?」
一瞬だけ――
“何かに触れた感覚”。
だが、掴めない。
いる。
だが――“位置が合わない”。
「……誰だ」
視線が、わずかに揺れた。
次の瞬間――
気配が消えた。
(……今、何者かに観測されていた)
タシトは、周囲一帯へシールド波を流した。
だが――何も引っかからない。
目を閉じた。
もう一度、最初からカナタを探り直す。
「……ずれている」力強く、目を開けた。
「座標の切り離しか?」
次の瞬間、タシトは――王宮の前に立っていた。
わずかに、空気が軋む。
王宮を覆う防護シールドが、外部からの干渉を検知していた。
だが――
「……通れるか」
タシトは、一歩踏み出す。
触れた瞬間、見えない層が、わずかに歪んだ。
*
エルナスに通信が入る。
「どうした?」
「タシト少佐がお見えです」
「……早いな」
エルナスは、静かに息を吸う。
「エルナス様、私が」
セリューが一歩前に出る。
その気配は、すでに“迎撃”のものだった。
「大丈夫だ」
エルナスは、短く制した。
「この城のシールドは通れない。
四人の高能力者による結界。
さらに、回廊を進むごとにタシトのリングを制御下へ置くシステムも導入されている」
一拍。
「……知っているだろう?」
「……ですが、“絶対”はありません」
セリューの声は低い。
「……カナタの所在が掴まれていない限り、最悪は避けられる」
その言葉の奥に、わずかな焦りが混じる。
王宮の入り口、第一回廊では。
「……擬態フィールドか」
タシトは、王宮の空に手をかざした。
「――やはり」
「……タシト少佐。ここから先は、許可が必要です」
近衛兵が駆けつける。
「エルナス王。彼女をどこへやった」
タシトは、前を見たまま言った。
近衛兵は、言葉の意味を理解できず、動きを止めた。
――その時。
「彼女は、こちらで保護している」
頭上から、声が落ちる。
「今、君の側に置いておくと危険だ」
「……」
長い沈黙。
「……わかった」タシトは、声の響く方を見てそのまま背を向けた。
そして、――消えた。
「……引いたか」 エルナスは、小さく息を吐いた。
そこは――
誰の“座標”にも属さない場所。
カナタは王宮の奥深くで眠っていた。
(第七十七章・了)




