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座標の外側

すべてが崩れたはずなのに、

ひとつだけ――消えていないものがあった。

「カナタ!」


扉を開けた瞬間、タシトは足を止めた。


――違う。


空気が、わずかにずれている。


「……いない?」


視線だけで室内をなぞる。気配は、消えていない。


手首を返す。


リングが起動し、立体ホログラムが展開された。 表示された座標は――この部屋。


「……どういうことだ」


一拍。


カナタがいるはずの“座標”。 だが――姿がない。


その瞬間。


“来る”。


感覚が、“上”を掴んだ。



――衝撃。


床が浮き、隣のビルの壁が裂ける。


歩道を歩いていたカップルの身体が、宙に浮いた。


「な、何……!?」


次の瞬間、叩きつけられる。


ガラスが砕け、悲鳴が遅れて広がった。


――一歩手前でタシトの

シールドがビルの崩壊を防いだ。


エネルギー砲の

ぶつかった轟音が、遅れて街を叩く。


下の階から、鳴き声がする。


――一瞬。


“守る対象の消失”が、判断を狂わせた。


――閃光。


暗いコロニーの内壁、その高空を光が貫く。


次の瞬間――


視界が、白に塗り潰された。




「……終わりか」


瓦礫の上で、男が呟く。


「――随分、静かだな」


わずかに眉をひそめた、その時。


タシトは、親子を抱き上げ――離脱させていた。

「もう、大丈夫だ」


「……こんな時に人助け?くははは」


「で――どうする」

背後から、声。


「……っ」


振り向くより早く――


そこに、いた。


「首が飛ぶ前に答えろ」


低い声。


「――彼女を、どこへやった?」


「……しらねぇな。まだ瓦礫の中じゃねえのか?」


口角が歪む。


同時に――衝撃波。


至近距離。


だが。


弾かれた。


タシトは、動かない。


「へぇ……やるじゃん」


男が笑う。


「久しぶりだな。“壊せそう”なのは」


腕のリングの光が、消えた。


その瞬間、空気の質が変わる。


「こっちは全解除だ。――お前は?」


答えは、なかった。


次の瞬間、上。


閃光が突き刺さる。


轟音。


地面が陥没する。


だが――


男は、笑っていた。

“遅れ”を待っていたかのように。


その笑みは、人間のそれとはどこか違っていた。


――内部崩壊。


「……そこか」


次の瞬間――

音が、追いつかなかった。


背後。


男の肩が、わずかに揺れる。


「……お前、どこまで外してやがる」


沈黙。


タシトは、呼吸を整えた。


「……誰の指示だ」


「はぁ?教えるわけ――」


最後まで言わせなかった。


――“そこにいた痕跡だけが、残った。”


(……規格外。惑星グランディアで力を増幅させたのか)




「グロジアの通信が途絶えました」


「……」


軍の会議室では、重い沈黙が落ちた。




王宮のシステム管理ルーム。

機械音が静かに脈打っていた。


「正気か……」


エルナスは、その場で崩れるように椅子に腰を落とした。


「タシトの居住区が……崩壊した」


ホログラムの地図。 そこにあるはずの建造物が――“一部抜け落ちている”。


「何があった……」


低く、途切れる。


「……軍か」


ゆっくりと顔を上げる。


「署名しなかったからといって、ここまでやるのか」


「……」隣にはセリュー。


沈黙。


「軍に説明責任を問え」




王宮の片隅。


美しい花に囲まれた空間で――


カナタは、静かに眠っていた。


何もなかったかのように。



(第七十六章・了)


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