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視線の中で

「ここが、別館B棟か」


「想像以上だな」


「広すぎだろ……」


口々に声が飛び交う。


専用機から惑星アストレアへ降り立った特殊部隊生三十名は、 潮風を感じながら施設へ向かっていた。


コロニーとは違う、 生身の海の匂い。


巨大な訓練施設は、 海沿いに要塞のように建っている。


その時――


上階のガラス越しに、 ひとつの影が動いた。


「……予定通りか」


感情のない声。


端末には、 整列する生徒達の情報が並んでいた。



ユウナギは、 ここへ来るのは二度目だった。


「ここなら、ヴェール・ガン照準〈5〉でもいけるんじゃね?」


ソードが肩に担いだヴェール・ガンを軽く鳴らす。


「どうだろな。建物ごと吹き飛ばすんじゃなかったっけ?」 バーチが首を傾げた。


「到着して早々なんだが、先生は海で泳ぎたい!」


「……は?」

生徒達が、一斉にプラス先生を見る。


「惑星アストレアだぞ!コロニーにはなかった大海だ!」


プラス先生は、目を閉じて大いに潮風を吸う。


「……悪くねえな」ソードは、乗り気だった。


「というか、これも訓練の一環だ! そもそもお前ら泳げるのか?」

プラス先生の表情が、 急に真剣なものへ変わった。


「結局それかよ!」


一行は、中央施設のエントランスに荷物を置くと、近くの浜辺まで行ってはしゃいだ。

特殊スーツは、水も弾いた。


恒星ソレイユの光が、 少しずつ高くなっていく。


「先生!いつになったら泳ぎ方教えてくれるですか?」


ミルルは、浅瀬ではしゃぐプラス先生めがけて叫んだ。


ミラは、クスッと笑う。

「……穏やか過ぎる訓練ね」


遠くの建物のガラスに、わずかな反射が走る。

誰かが、こちらを見ている――そんな気がした。


カナタは、ふと足を止めた。


「どうした?」ユウナギが気にするように聞いてきた。


「あ、いや……誰かに見られてる気がして」


ユウナギとこうして話すのは、 あの日以来だった。


ユウナギは、建物の方をみた。


「……確かに誰かに見られてもおかしくない状況だけどな」

ユウナギは、カナタを安心させるように微笑んだ。


「さ、お遊びはここまでだ!館に戻るぞ!」


「教えてくれねーのかよ」バーチが突っ込む。


「今後、長期滞在していくだろうから、次の機会だ」プラス先生は、そういうと皆を呼び寄せ、再び施設に戻った。


カナタは、まだどこか落ち着かなかった。

――さっきの視線が、消えていない気がした。



そこは、重厚な戦闘訓練に特化した場所。


ユウナギ、ミルル、バーチ、ソード、シャド、ミラを含む八人は、射撃場にいた。

それ以外の生徒は先に昼食を取らせている。


プラス先生は、室内の奥を指差す。


「これから、三十メートル先に敵を出す」


「その立体ホログラムを高速で移動させる」


力強く区切られた指示。


「攻撃側は、照準〈1〉を選択。確実に仕留めろ」


ユウナギが一歩前に出て、照準を合わせる。 ソードも、遅れて呼吸を整えた。


「ミルル、バーチ、他、防御担当は前方サイドに配置」 「守るべき対象物が紛れて出てくる。瞬時にシールドを部分展開しろ」


攻撃側の四人が位置につく。


標的が現れた。


ユウナギは、即座に引き金を引く。

ぶれることなく命中する。ソードも負けていない。


「ほお!」プラス先生の感嘆の声が小さく響いた。


次々と標的が現れ、

音も光もないまま、次々に倒れていく。


シャドの出る幕が無かった。


「あのさ、もう少し残しといてくれない?」ソードがため息をつく。


「では、標的を2倍にする。守るべき対象物はいつ出てくるかわからないから、気を弛めるな!」

プラス先生は、ホログラムの端末を操作した。


守るべき対象物が突然現れた。


シャドは、誤って撃ってしまった。


「あ」シャドは、苦笑い。


「……今のは、本番なら“一般人を撃った”という判断になる」


プラス先生の声は、低かった。 怒鳴るでもなく、淡々としている。


「シャド。焦った理由を言え」


「……守る対象が急に出てきて判断が遅れました」


「違う」


即答だった。


「判断が“遅れた”んじゃない。

判断を飛ばした」


シャドは、言葉を失う。


「撃つことが最優先になった瞬間、お前の中から“守る”という選択肢が消えた」



視線が、防御側に移る。

「ミラ、ミルル、バーチ、サイド」


四人の背筋が伸びる。


「今の対象、視認してからシールド展開まで――一拍、空いたな」


ミルルは唇を噛み、ミラは目を伏せた。


「立っているだけでは、防御ではない」


「攻撃が走る“前”に張れなければ、意味がない」


「守ることに、積極的に挑む姿勢だ!」


射撃場に、静寂が落ちる。


「――もう一度やる」


プラス先生は、ホログラムのボタンを押し直した。


「次は、攻撃の正確さより、選択の正しさを見る」


その一言で、 この訓練の本質が、全員に伝わった。



(第七十一章・了)


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