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完全制御の要請

放課後の教室は、まだ何も知らなかった。


「来月から、惑星アストレアの訓練場に行くらしいぜ」 「特殊部隊訓練施設、別館B棟だろ」 「俺ら、成長したってことかな」


軽い調子の言葉が、放課後の空気に飛び交う。


カナタのいるコロニールミナリアから、惑星アストレアまでは飛行船で二時間弱。

約七十万キロ――

決して、気軽に行き来できる距離ではなかった。


「ヴェール・ガンの練習も本格化し出すだろうしな――」



王宮では――


「エルナス様。書状が届いております。軍からです」


セリューはそう告げると、封蝋の施された封筒を差し出した。


エルナスは執務室で、黙々と書類に目を通していた手を止める。


「軍、か……。何だろう?」


視線を上げ、セリューを見る。


封筒を受け取り、静かに中の書状を取り出した。


目を走らせる。

それだけで、室内の空気がわずかに張り詰めた。


「……タシト・レヴァントのリングを、すべて制御してほしい、という要請か」


低く、確認するような声だった。


「理由は?」


セリューは一歩前に出る。


「――タシトの力は、王権を脅かす可能性がある、とのことです。 調査報告では、単独判断による規範違反が複数確認され、 潜在的危険人物である可能性が否定できないと」


淡々と、だが一語一語を選ぶように続ける。


「現在、軍の監視対象に指定されています」


エルナスは、しばし沈黙した。


「……なるほど」


机に書状を置き、指先で縁をなぞる。


「そのような人物が―― 今も、カナタと同じ環境にいるのか?」


「はい。現時点では、通常通り学校に通っています」


わずかに、エルナスの眉が動いた。


「……それで、本当に問題は起きていない?」


「公式報告では、特に異常はありません」


エルナスは、椅子の背にもたれ、天井を見上げる。


「――ならば」


一拍。


「直接、カナタに話を聞いてみたいな」


「参考人として、召喚という形を取りますか?」


セリューの問いに、エルナスはすぐには答えなかった。


「……」


沈黙が、執務室に落ちる。


「“呼びつける”必要はない」


やがて、エルナスは静かに言った。


「彼女は、被疑者ではない。

……まだ、何も知らないだけだ」


「一般人の状況確認という名目で、

ルイゼンを遣わしてくれ。

——惑星アストレアの特殊部隊新施設の視察も兼ねている」


セリューは、一瞬だけ視線を伏せる。


「承知しました」


それ以上、言葉は交わされなかった。


セリューは書状を受け取り、踵を返す。 執務室の扉が、音もなく閉じられた。


長い回廊を、彼の足音だけが、

王宮に静かに響いていた。



(第七十章・了)


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