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基準は満たしている

それは、選ばれた証ではなかった。

ただ、基準を満たしたという

事実だけが残った。

明るく白い検査室だった。

校内の最上階に設けられた、隔離された異空間。


光も、音も、

感情を持たない場所。


立っているだけで、自分の輪郭が測られていくような感覚があった。


シャドは、丸みを帯びた立方体の装置の中央に立ち、

指示されるまま、シャインスフィアを展開する。


淡い光。

最初は、いつもと変わらない黄色。


――だが。


計測パネルの数値が、

ほんのわずかに揺れた。


プラス先生は端末を見つめたまま、

しばらく、何も言わなかった。


「……青だな」


その声は、驚くほど淡々としていた。


シャドは、無意識に息を止める。


「ただし、安定はしていない」

「境界に触れただけだ。越えきってはいない」


プラス先生は、ようやく顔を上げる。


「今後、どうなるかは――本人次第だ」


それ以上の説明は、なかった。


 

その夜。


シャドは、国立公園の芝生と土が入り混じった地面に立ち、

一人でシャインスフィアを展開する。


夜風の中、

光は、静かに揺れた。


色は、また黄色に戻っている。


「……変わらない」


そう呟いた瞬間、

胸の奥に、言葉にできない“ズレ”が残っていることに気づく。


力は、確かにある。

身体の中を、はっきりと流れている。


だが――

それを生み出している感覚だけが、

どこか、戻ってきていなかった。


——自分がやっているはずなのに、

ほんのわずかに“他人の手”のようだった。



――青を生み出す訓練から、二日後。

中央訓練施設では、教師不在の時間を使い、生徒たちが基礎体力を鍛えていた。


「カナタさん、すごい体力ですね」ヨガサは、感心したように、隣で見ていた。


「これしか取り柄がないですからね」微笑んで見せる。

カナタの腕立て伏せは三桁をゆうに越えていた。

皆は、疲れて各々休んでいた。


「この前、まじで恐怖だったよな。大丈夫だったのシャド?」生徒の1人が聞いてきた。


「……いるだろ、ちゃんと」


「大丈夫、殺されてない」


何気ない会話で、笑い合う。


そこへ、タシトが現れた。

一瞬にして空気が変わる。


「整列!」ひと言。


即座に、整列した生徒の前で、

タシトはヴェール・ガンを二丁、訓練用の遮蔽物の上に置いた。


金属音が、静かに響く。


「シャド、ルアナ」


名を呼ばれ、シャドと茶髪の女子生徒が前に出る。


タシトは端末に目を落としたまま、短く言った。

「基準は満たしている」


一拍。


「以上だ」


それだけだった。

賞賛も、忠告もない。

ただ、武器が差し出される。


タシトはミラと残りの男子生徒を一瞥した。

遮蔽物に置かれていたグローブを差し出す。


「Defenceの二人。基準は同じだ」


シャドは受け取りながら、

それが“祝福”ではないことだけは、はっきりと分かった。


自分で辿り着いていない、

タシト隊長に引き上げられただけの、借り物の“青”。


——だから、こんなにも手応えがない。

そう思った。


……だが、それだけではない気もしていた。



(第六十八章・了)


武器を持つということは、

守るものを

選ばされるということだった。

——基準の先で。

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