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潜在的脅威

カナタは、フィッシュサンドをひとくち大胆に頬張る。


「……美味しい」


抜け出して食べるご飯がこんなにも美味しいとは、カナタはタシト隊長を困らせることをこの時ばかりは、忘れていた。


店の扉が開く。


「カナタさん、先ほどタシト隊長の弱点は、あなただと話したばかりではありませんか」

ケティオスが駆けつけた。


「!?」口から、こぼれそうになるカナタ。


「すみません。フィッシュサンドが急に食べたくなって……」


「それなら、私にお申し付けください」

こんなに焦ってるケティオスさんみたことがない。


自分がとんでもないことを

やらかしたんだと悟る。


「そんな。ケティオスさん忙しいのに子供みたいなこと頼めません」言ってることと、今やってることの整合性が合わないままカナタは、言い訳をする。


――気まずかった。


「本当にごめんなさい!」

カナタは、ケティオスの顔をおそるおそる見た。


こんなに心配して、護衛の落ち度を咎められる?

タシト隊長ってそんなに怖いの?


申し訳なさと同時に、自分の子供じみた行動に反省をした。


――タシト隊長が本気で怒る時ってどんな時だろう。

それを乗り越えたら、そしたら、もっと家族らしくなれる?こんなことはもう二度としないけど、それでもちょっと想像してみた。



惑星グランディア。

市街地から隔てられた高地に建つ、

高度技術国家の中でも、限られた者しか立ち入れない研究施設。


その一室に、再びタシトが立っていた。

タシトの指先が、わずかに止まる。


「――どういうことだ」


低く、抑えた声。


「ほ、本当に……いなくなったんです」

研究者は、必死に首を振った。


「なのに、箱は閉まっていたはずなのに……

次の瞬間、人型になって……アンドロイドがもう扉の前に立っていたんです」


言葉が追いつかず、研究者は両手を大きく振って状況をなぞる。


「それで……次の瞬間、砂みたいに崩れて……

床に何も残らず、消えました」


室内が、凍りつく。


「――嘘だったら、どうなるか。分かっているな」


タシトの声に、感情はない。

ただ、事実だけを求める圧があった。


この施設には、極秘任務ゆえ監視カメラは設置されていない。

証拠は、彼らの証言だけ――

そして、この施設が“何かを失った”という事実だけだ。


「ち、違います……! 嘘じゃない!」


タシトは無言で歩み寄り、研究者の首元を掴み上げた。


「本当に、知らないんだ……!」


一瞬、視線が交差する。


「……そうか」


次の瞬間、

タシトは研究者を、ためらいもなく窓の方へ放り投げた。


外気が吹き込む。


もう一人の研究者は、その場に崩れ落ち、腰を抜かしたまま震えていた。


「……わ、私は……見ていません。本当なんです……」


タシトを見上げ、後ずさる。


外では、ケティオスの展開されたフィールドが落下を受け止め、

研究者の身体を地面へと静かに降ろしていた。


タシトは、窓の外に一瞬だけ視線を向け、

何も言わずに背を向けた。

次の瞬間、リングが光る。

上官からの呼び出しだった。


「はい」

タシトは、右手の一番外側のリングに触れる。


『タシト、すぐに官舎に戻れ』



「……砂みたいに消えた」


ふと、タシトの口から言葉が漏れる。


軍の人間に囲まれ、長い廊下を歩いていた。

その中には、直属の上官――ジランド・ヴェルロークの姿もある。


廊下の突き当たり。

重厚な扉が、無言のまま立ちはだかっていた。


扉が開く。


広い部屋の奥は段差状になっており、

弓なりに配置された長机が視界に入る。


そこに座していたのは――

オルデン・コア。

特殊能力値測定センターを束ねる、国家中枢の重鎮たちだった。


「タシト・レヴァント」


低く、威圧的な声。


「なぜ、そなたがここに呼ばれたか……分かっているな?」


「……」


タシトは視線を逸らさない。


この場に立つだけで、膝を折る者もいる。

だが、彼は違った。


「旧文明技術。

すなわち、国家管理案件であるアンドロイドを――

なぜ、極秘に発掘した?」


一瞬の沈黙。


「はい。……衛星メア・フェールでの訓練生強化合宿中に発見しました。

報告に値するかどうか、確認する必要があった」


「言葉を慎め」


隣から、ジランドが低くたしなめる。


オルデン・コアの一人が、鼻で笑った。


「単独判断。規範違反だな。

……それで?」


視線が、突き刺さる。


「どうだった?」


「発掘はしましたが――

価値はありませんでした」


ざわり、と空気が揺れる。


「では、その“価値のないもの”は、どこへやった?」


一拍。


「……廃棄した」


短い言葉。

それ以上でも、それ以下でもない。


「タシト・レヴァントは、下がってよい」


「はっ」

小さく応えると、踵を返して部屋を出た。


扉が閉じる音が、やけに重く響く。


「……君たちには、伝わらなかったのかな」


オルデン・コアの追及を受け、弓なりに並ぶ軍上層部の表情が強張る。


「あやつの行動は、目的不明。


そして――

制御不能になりかねない、潜在的脅威だ」



(第六十七章・了)


それはまだ、敵ではない。

だが――

誰かにとっては、

すでに「排除すべきもの」だった。

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