はじめて、人を見る
「……お前は、人を見ていない」
カナタは、タシトの言葉を思い出していた。
ユウナギのこともよく知ろうとしていなかった。ミラのことだって何も知らない。
ユウナギの家族のことや、どこで育ったのか――
そんなことを考えたのは、つい最近だった。
父に会った後くらいから――“家族”を意識してからだ。
今まで、ただその現状で満足していた。
——でも、
変わらない日常を好んで、何が悪い?
私は、ずっと受け身だった。
流されるままの日常。
……変わるのが、怖かったのかもしれない。
そう、追い詰められた時だけ積極的になれる。
タシト隊長にポトフを作ろうと思えたのも、そうだ。
父に否定されてからだったのかもしれない。
私だって、タシト隊長のことを知ろうとした。
そんなに、……否定しなくてもいいじゃん。
目頭が熱くなる。
気が付けば、カナタは、またひとり教室で取り残されていた。
――いつものことだった。
◇
お昼のベルが鳴る。
各々、食堂やカフェテラスに向かう。
ミラとミルルは、Defenceの話で盛り上がっていた。
――最近特に会話に入れない。
「あれ?元気ないな?」ミラはカナタに話しかけてきた。
「え?」
ミラが気にかけてくれている。……分かっていたはずなのに。
私は一体、何に不満があったのだろう。
――罰当たりだ。
ミラの隣にはミルルが、それを黙ってみていた。
ミルルのことは、今までほとんど意識していなかったけど、なぜか、ずっと苦手だった。会話することもほとんどない。
よく見ると、とても可愛い。
――のに、少し怖い。
「アレイシアさん」ミルルに呼ばれた。名前ではなくみよじで。「大丈夫?タシト隊長となんかあったんですか?」
「……え?いえ別に」カナタは、顔を伏せた。
「正直ね、アレイシアさんが羨ましい。あんなカッコいい人の婚約者なんて。
嫉妬しちゃう。どうやって付き合えたんだろ、なんてね思っちゃう。ふふ」ミルルは、少し固い微笑みで話かけてきた。
「……嫉妬、ですか」
まただ。
いつかの、アンドロイドみたいな返し。
壁を作ってしまう。
言葉をそのまま返してしまう。
――また、受け身だ。
「だって私ね。ずっとタシト隊長のこと憧れてたんだもん。今もだけどね」
「……そうなんですね」
――沈黙。
「ねぇ、早く学食いこ」ミラが二人を促した。
ミルルは、タシトに憧れていた。
——知らなかった。
……私だけ?
確かに、前はどこか楽しそうだった。
でも、今は違う。
私がタシト隊長と婚約したから。
そう言えば、ユウナギとミルルが二人でソウルメイトに選ばれた時、自分ひとりが取り残されたみたいに楽しくなかった。――悲しかった。
――あの時から話してなかった。今が初めてかも。
「ねぇ、ミラ」
「どうしたの?」ミラは、優しくカナタを覗きこんだ。
三人は、食堂の席についている。
「私、今日はユウナギとご飯食べたい」
「え?」ミラは、ユウナギがシャドとバーチ、ソードといるのが目に入った。
「いいんじゃない?……誘ってくれば?」ミラが少し驚いた表情をした。
「うん、ありがと」
カナタは、立ち上がる。
一瞬だけ、足が止まった。
——それでも、歩き出した。
「私、ちょっと気まずいこと言ったかな」ミルルが頭をかいた。
「あれがカナタだから、気にするだけ無駄よ」ミラは、軽く笑ってミルルに返した。
「おい、カナタちゃんがこっちにくるぜ」バーチは、ユウナギへと目をやった。
「……」ユウナギは、黙ったままカナタの方を見た。
「うわ、何なに~。借りた金返せとか言ってくるんじゃない?」ソードの悪ふざけが始まった。
「ふっ、それだと、ユウナギに失礼だよ」シャドが思わず笑う。
「俺らは退散しますか」バーチが目の前のトレーを持とうとした。
「いや、いい。ここにいてよ」ユウナギは一瞬だけバーチを見て、すぐにカナタへ視線を戻した。
ユウナギの前に立つカナタ。
「ユウナギ、……良かったら、お昼一緒に食べよう」
それは、ぎこちない――
けれど、確かに“自分の意思で踏み出した一歩”だった。
(第六十二章・了)
その一歩は、小さくていい。
でも確かに、
世界との距離を変えていく。




