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はじめて、人を見る

「……お前は、人を見ていない」


カナタは、タシトの言葉を思い出していた。

ユウナギのこともよく知ろうとしていなかった。ミラのことだって何も知らない。


ユウナギの家族のことや、どこで育ったのか――

そんなことを考えたのは、つい最近だった。

父に会った後くらいから――“家族”を意識してからだ。


今まで、ただその現状で満足していた。

——でも、

変わらない日常を好んで、何が悪い?


私は、ずっと受け身だった。


流されるままの日常。


……変わるのが、怖かったのかもしれない。


そう、追い詰められた時だけ積極的になれる。


タシト隊長にポトフを作ろうと思えたのも、そうだ。

父に否定されてからだったのかもしれない。


私だって、タシト隊長のことを知ろうとした。

そんなに、……否定しなくてもいいじゃん。


目頭が熱くなる。


気が付けば、カナタは、またひとり教室で取り残されていた。


――いつものことだった。



お昼のベルが鳴る。

各々、食堂やカフェテラスに向かう。


ミラとミルルは、Defenceの話で盛り上がっていた。


――最近特に会話に入れない。


「あれ?元気ないな?」ミラはカナタに話しかけてきた。


「え?」


ミラが気にかけてくれている。……分かっていたはずなのに。

私は一体、何に不満があったのだろう。


――罰当たりだ。


ミラの隣にはミルルが、それを黙ってみていた。


ミルルのことは、今までほとんど意識していなかったけど、なぜか、ずっと苦手だった。会話することもほとんどない。

よく見ると、とても可愛い。


――のに、少し怖い。


「アレイシアさん」ミルルに呼ばれた。名前ではなくみよじで。「大丈夫?タシト隊長となんかあったんですか?」


「……え?いえ別に」カナタは、顔を伏せた。


「正直ね、アレイシアさんが羨ましい。あんなカッコいい人の婚約者なんて。

嫉妬しちゃう。どうやって付き合えたんだろ、なんてね思っちゃう。ふふ」ミルルは、少し固い微笑みで話かけてきた。


「……嫉妬、ですか」


まただ。

いつかの、アンドロイドみたいな返し。


壁を作ってしまう。


言葉をそのまま返してしまう。


――また、受け身だ。


「だって私ね。ずっとタシト隊長のこと憧れてたんだもん。今もだけどね」


「……そうなんですね」


――沈黙。


「ねぇ、早く学食いこ」ミラが二人を促した。


ミルルは、タシトに憧れていた。


——知らなかった。


……私だけ?


確かに、前はどこか楽しそうだった。


でも、今は違う。

私がタシト隊長と婚約したから。


そう言えば、ユウナギとミルルが二人でソウルメイトに選ばれた時、自分ひとりが取り残されたみたいに楽しくなかった。――悲しかった。


――あの時から話してなかった。今が初めてかも。


「ねぇ、ミラ」


「どうしたの?」ミラは、優しくカナタを覗きこんだ。

三人は、食堂の席についている。

「私、今日はユウナギとご飯食べたい」


「え?」ミラは、ユウナギがシャドとバーチ、ソードといるのが目に入った。


「いいんじゃない?……誘ってくれば?」ミラが少し驚いた表情をした。


「うん、ありがと」

カナタは、立ち上がる。

一瞬だけ、足が止まった。

——それでも、歩き出した。



「私、ちょっと気まずいこと言ったかな」ミルルが頭をかいた。


「あれがカナタだから、気にするだけ無駄よ」ミラは、軽く笑ってミルルに返した。




「おい、カナタちゃんがこっちにくるぜ」バーチは、ユウナギへと目をやった。


「……」ユウナギは、黙ったままカナタの方を見た。


「うわ、何なに~。借りた金返せとか言ってくるんじゃない?」ソードの悪ふざけが始まった。


「ふっ、それだと、ユウナギに失礼だよ」シャドが思わず笑う。


「俺らは退散しますか」バーチが目の前のトレーを持とうとした。


「いや、いい。ここにいてよ」ユウナギは一瞬だけバーチを見て、すぐにカナタへ視線を戻した。


ユウナギの前に立つカナタ。


「ユウナギ、……良かったら、お昼一緒に食べよう」


それは、ぎこちない――

けれど、確かに“自分の意思で踏み出した一歩”だった。



(第六十二章・了)


その一歩は、小さくていい。


でも確かに、

世界との距離を変えていく。

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