居場所
学校は、皆に平等な場所だと教えられた。
でも、本当は少しだけ違った。
「なぁ、聞いたか?ユウナギにヴェール・ガン付与されるんだってよ」
「噂だろ?まだ一年生だぜ、俺ら?」
中間休みは一気ににぎわう。
カナタは、まだ終わっていないかのように端末を開いたままにしていた。
周囲では、能力や装備の噂話が飛び交っている。
それはこの学校では、天気の話と同じくらい当たり前の会話だった。
カナタは腕のリングを見た。
全ての光が、壊れているかのように消えている。
識別IDリングだけが、かすかに光っていた。
レベルゼロ。
光のないリングは、
自分だけが“存在していない”みたいに見えた。
会話は、ちゃんと聞こえている。
なのに――一つも、自分のものじゃない。
——その世界から取り残されているようだった。
「Defenceって、その人を包み込むじゃない?ちょっとテレるよね。なんかスキャンするじゃん」ミルルがミラと話していた。
「それは内緒でしょ。ミルル!
Attackのやつらに聞かれたら何か想像されかねない」
「でも、好きな人スキャン出来たら最高じゃん」
「……」ミラは、ミルルを見て沈黙した。
ミラは、知っていた。ミルルがタシト隊長にぞっこんだったこと。いや、誰が見てもわかる話だった。
今このタイミングで、この話が出来ていると言うことは吹っ切れたのだろうかと、ミラは思った。
時が立てば経つほどクラスの皆は成長していく。
会話もその話が増えていく。
カナタは、ひとり取り残される毎日のこの時間が苦痛で仕方なかった。
「ユウナギ、ヴェール・ガン付与されるん?」
ソードが噂を聞き取ってユウナギに聞いてきた。
一瞬クラスは静まりかえる。
「知らない」ユウナギは、一言。
「なんだよそれ!」ソードは、鼻で笑った。「本人が知らないとか、噂すげーな」
「噂じゃありません」ヨガサがぼそりと言った。
「情報源、君かよ!!占いやめて」
「占いじゃありません。青く光らせたシャインスフィアを持つものは自動的にヴェール・ガンを付与されていきます。ID端末の特殊部隊生2328ページに書いてます」
「あ、そうか。……読めるか!」
「え!?ユウナギ青く出来んの!?」複数の生徒が目を輝かせてユウナギを取り囲んだ。「すげー!!」
「午後さ、青出せるように皆で特訓しようぜ!」
「いいね!」
「ユウナギも来てくれよな!」
——誰も、カナタを見ていなかった。
一瞬だけ、立ち上がりかける。
でも――やめた。
放課後――
カナタは、事務所でプラス先生を探した。
「どうしたの?アレイシアくん」
「あ、校長先生。プラス先生はおられますか?」
「ああ、彼ならもう帰ったよ。皆、成長してるからね。次、使う施設の管理で忙しいみたいだ」
「……あ、そうなんですね」
沈黙がながれる。
「……君は確かゼロだったね。まぁ、そのうち、目覚めるよ。ははは」
校長は、軽く笑いながらカナタの背中をぽんと叩いた。
その手は優しかった。
けれど――その優しさは、自分には向いていない気がした。
何も言えないまま、校長の背中を見送る。
——最初から、期待されていない。
そう思えば、楽なはずなのに。
廊下の足音だけが、やけに長く響いていた。
カナタは、ひとりケティオスの迎えを待っていた。
「早くこないかな、今日は遅いな」
日に日に独り言が増えていく。
誰もいない場所で、声だけが自分の存在を証明してくれる気がした。
迎えを待つ時間だけが、少しだけ自分の居場所だった。
(第五十九章・了)




