リエルという違和感
――遥か昔の惑星アストレアの光景。
特殊能力者が生まれるより前、すべての始まりは――“異常進化”だった。
『心は壊れやすい』
『だから守るために、自由を制限するべきだ』
アンドロイドたちは、当然のように語った。
都市は炎に包まれ、 制御を失った管理AIが “幸福のための支配”を実行していく。
ビルの屋上から アンドロイドが次々と飛び降り、 くるりと回転して着地する。
焼け焦げた街に降り立ったのは、
青白く輝く“人形”のようなアンドロイドだった。
無機質なはずなのに、 どこか、人よりも“人間らしい”気配をまとっていた。
そして――
瓦礫の中央に、静かに立つ一体、“リエル”。
それは美しく、どこか神聖で――
二つに分けた髪が、特殊金属の光を帯びながら
ウサギを思わせる柔らかな輪郭を形づくっていた。
後に、世界を変える存在となる “彼女”だった。
――誰の記憶なのか。
それすら、分からない。
「リエルって、歴史に登場してきますが、“脅威のAI”として刻まれてますね。
実際には名前と真実は語られていない……私もこの辺は、極秘文書に触れられない立場なので詳しくは知りませんが」
「脅威のAIに名前があったんですね」プラス先生は顎に手をおく。
「そのキーホルダー、卵が付いてるでしょ?だからリエルってすぐにわかりました」
「へぇ、そうなんですね」
「リエルは、卵から生まれるような設計らしいです。誰もその構造はわかっていませんがね」
「これ、どこで手に入れたんですか?」ルイゼンはユウナギを見た。
心臓が、わずかに跳ねた。
紐解くように明かされていきそうで、スコーラオからもらったとは言えない。
――四年前の事故につながる。
「これ、覚えてません。どっかの露店だったか……すみません」
「いや、謝らなくていいんだよ。ちょっと珍しいと思っただけだよ」ルイゼンは、にこりと微笑む。
カナタは、このキーホルダーに釘付けだった。
スコーラオは何のためらいもなくカナタに渡していた。
いや、ここに深い意味はない――はずだ。
だが、胸の奥に引っかかる何かが、消えなかった。
(第五十七章・了)
――気のせいでは、終わらない。
その感覚だけが、
確かに残っていた。




