触れてはいけない過去
久しぶりに降り立ったその星は、変わらず緑に満ちていた。
「久しぶりの帰省だな」プラス先生は、ユウナギに話しかけた。
空港のゲートを、腕のリングのIDをかざし通り抜ける。
「ここから、海辺にある特殊訓練施設・別館B棟にいく」
「はい」
二人は、モノレールへ乗り換えた。
車内は観光客で賑わっている。 だが、施設へ近づくにつれ、 乗客は少しずつ減っていった。
海が見えてきた。恒星ソレイユの光が乱反射して、水面が輝く。
コロニーでは見ることのなかった、どこまでも続く青空が広がっていた。
「あそこに見えるのが別館B棟だ」
そこには、巨大で鋼鉄な建物がいくつも立っていた。通常の施設とは明らかに違う、戦闘を前提とした構造だった。
「話って、なんだ?ユウナギ」プラス先生は、荷物をおろす。リュックから水筒を取り出し水分補給をする。
「……先生に技を教えて欲しくて」
「俺に?どんな?」プラス先生は、積極的なユウナギを微笑ましく思った。
「離れたところからシャインスフィアを出す方法です」
空気が、わずかに張り詰めた。
「……ユウナギ、わるい。お前には無理だ」
「え?どうして?」
「あの技は、Defenceも使いこなすことができるレベル8以上のものなんだ」
「……レベル8以上?」
「Defenceの空間把握と融合された技なんだよ。どこで知ったかは知らないが」
タシト隊長は、技を1つ教えてやると、いって見せつけた。
――最初から出来ないと分かっていながら。
ユウナギの拳に力が入った。
俺に――カナタを守れないってことを、
最初から分からせるためだったんだ。
「手のひらのシャインスフィアを分散させる方法なら教えてやれる」プラス先生は、付け加えた。
「あ……」いつかタシト隊長が授業で披露していた技だ。
「お願いします」
「せっかくだし、施設使わせてもらおうか」プラス先生は、ユウナギの肩に手を置いた。「ここは、暑い。お前も水分補給しろ」
ユウナギは、近くにあったリング端末決済の自動販売機から、水を購入するとごくりと飲み干した。
「先生は、俺に用があるんですよね?」
「……ああ。あまり学校で話したくなくてな。カナタ・アレイシアのことだ」
「カナタの?」ユウナギに、わずかな緊張が走った。
「お前たち幼なじみだろ?」
「はい」
「……八年前のこと、少し聞かせてくれないか?」
二人は、施設目前にある公共の長椅子に腰かけた。
「俺とカナタは、五歳から一緒でした。 学校でも、皆が憧れてたんです。 強くて――優しくて」
「今はちょっと想像出来ないな」プラス先生は、顎を触った。
「八歳の時に、爆発事故があったんです。俺も詳しく知りません。病院に駆けつけた時には――
もう、そこにいたのは――“別人”みたいだった」
「記憶喪失と報告されてるやつだな。レベルも11からゼロに」
「はい。その頃からカナタはレベルにやたらと執着を持っていた」
「自分がゼロだからか?」
「わかりません。……期待が、重かったのかもしれません」
「なるほど。では、四年前の事故についてはどうだ?」
「……」
ユウナギは、すぐには答えられなかった。
「どうした?何か、言えないことでもあるのか?」
四年前の“倒壊事故”という名で隠された――
タシト隊長とスコーラオの戦闘による施設破壊。
プラス先生を巻き込んで良いのだろうか。
――消された事実。
「先生……実は」
(第五十五章・了)




