色の消えた未来
「カナタ・アレイシアの父……
ガイアス・レシュト」
プラス先生は、名簿登載を確認していた。
そして、リサーチをかける。
「ルシエル因子の研究者。アレイシア波動生体研究局・AWBIの所長。……大したものだな」
「母は、セレン・アレイシア。八年前の研究施設の爆発事故で巻き添えになっているのか……えらい美しい人だな。不謹慎だ」
「なんだ?四年前にも事故があったのか……妙だな。こんなことが二度も続くなんて」
「プラス先生?何してるんです?」
振り向くと、校長が覗いてきた。
「あ、校長!いやちょっといろいろ勉強しておかないとと思って。生徒のことも。ははは」端末を即座にしまうプラス先生。
「……」
「次の授業が始まりますね、それでは失礼します」
プラス先生は、足早に立ち去った。
「?」校長は、顎髭を触り首をかしげた。
事務所の片隅では、静かにその様子を見ている者がいた。
「……カナタの父は、特殊能力者じゃないんだな」
廊下を歩きながら、プラス先生はカナタの台詞を思い出していた。
(先生って、……探偵みたい)
「探偵みたいか、悪くない」プラス先生は、鼻を指でつんとあげると、特殊能力施設に向かった。
曲がり角を曲がったところで、
派手に人にぶつかった。
「あ、すみません!」プラス先生は顔をあげた。
「いたたた」
「なんだ、ソードじゃないか!びっくりするだろ」
尻餅をつくソード、あとからバーチが走ってきた。
「シールド張ってくれよ……バーチ」ソードの顔が歪んでいた。
「しょうもないところで張れるか!」バーチは、ソードの尻を蹴りあげ起こした。
「うわっ!コイツ、……さいあく」尻を痛そうに押さえる。「俺がAttackだって忘れてやがる。いつか標的にするぞバーチ」
「お前ら、角を猛スピードで走ることにもの申すぞ」
「……先生も前見て走ってよ。 っていうか、なんでシールド張ってないの?」ソードは、手を広げる。
「お前な!まぁ、考え事してた。わるい」
「ぜんぜん無防備じゃん先生。まぁ校内で命狙われることはないだろうけどさ」
「油断は、禁物だ!」プラス先生は、指を指して言い放った。
——その言葉が、自分自身に向けたもののように響いた。
「隠れているんだろ?ヨガサ」
ヨガサが花壇の茂みからゆっくりと出てきた。
放課後の校舎裏は、人通りが少なく静かだった。
花壇の土は夕方の光で赤く見え、風が吹くたびに葉が擦れる音だけがした。
「先生、すみません」
ヨガサは花壇の茂みから現れた。
「どうした。……まぁ、話くらいは聞くぞ」
「色が変わったんです」
「え?何?シャインスフィアの?」バーチが身を乗り出す。
「違います」
ヨガサはフードを深く被り直す。
夕方の風が吹き、花壇の葉がざわりと揺れた。
「先生がさっき事務所におられましたよね。
何か調べものをされていました。
その時、先生の色が――変わったんです」
「どういうことだ?」
少し間を置いて、ヨガサは言った。
「色が、なくなったんです」
「何だよそれ、怖い話か?」ソードは思わず足を止めた。
ヨガサは静かに続ける。
「その人の“時間”が、私にはなんとなく見えるんです」
「うわ、まじかよ……」
「……何が言いたいんだ?ヨガサ」引き笑いを浮かべるプラス先生。
「何がって、先生の未来の話してんのよー!」
ソードが茶化すように叫ぶ。
「っていうか、君こわいわヨガサさん」
「私、当たるんです」
「つまり、先生は何かヤバイものに近づいたってこと?調べもので」バーチは、言う。
「そうです」
「お前ら察しがいいな。 つまり、“これ以上調べるな”って警告してくれてるのか?」
「はい、そうです」
「困ったなぁ。先生そう言うの信じないからさ」プラス先生は、バーチとソードをみた。
「俺は信じるかな」
「俺も」
「おい!何だよ!お前ら急に。
まぁ、注意しとくよ。ありがとなヨガサ」
(第五十三章・了)
未来は変えられるのか。
それとも、ただ知らないまま進むことが、唯一の救いなのか。
警告は、いつも静かに訪れる。
叫び声ではなく、
誰にも気づかれない小さな声で。
だから人は、
それが運命だったと、後になって気づく。




