静かなる包囲
唯一カナタと繋がり続けることが出来る
ウサギのキーホルダー。
心なしかその存在は、揺らいでいた。
――エルナス王。
この惑星の王。
その一言だけで、すべての制約が成立してしまう男。
彼ならカナタを守れる。
カナタを守れるなら、それで良かった――はずだったのに。
“願い”だけでは、どうすることも出来ないのだろうか。
カナタを取られたくない。――誰にも。
自分が冷静でないことは分かっている。
自分のアイデンティティの一部に、カナタがいた。
これは恋愛なんかじゃない。
繋がりだ。
「大丈夫か?ユウナギ」シャドが声をかけた。
ふっと息を吐く。呼吸が浅い。
「あ、ああ」ユウナギは前髪をかきあげる。
「……あの花束、誰からだろうな」
クラスの誰かの声を借りるように言った。
誰からかなんて、分かっている。
それでも、第三者の言葉として口にする。
(分かっているのは、カナタとタシト隊長だけだ)
シャドは、少しだけユウナギを見たあと言った。
「まぁ、タシト隊長が部隊で最強だしな。誰も手出しできないだろ」
その言葉は、どこか棘があった。
「……そうだな」ユウナギは受け流す。
頭の中は、ずっとカナタで埋まっていた。
授業中、ふと窓の外を見る。
警備ドローンの数が、明らかに増えていた。
――多い。
動きにも、わずかな“意図”が混じっているように見える。
「……変わった?」
気のせいかもしれない。
けれど違和感だけが残った。
ユウナギはノートの端に、ドローンの軌跡を線として描く。
今は、何も考えない。
次の日も、その次の日も。
線は増えていく。
やがてページの端は、細い軌跡で埋まっていった。
休み時間、シャドが言った。
「そういえばさ、カナタさん送り迎えしてるの、うちの兄なんだ」
「え?」ユウナギの思考が止まる。
「この前、部隊に所属しているパイロットの兄がいるって言ってたじゃん。
タシト隊長の直属の部下として。
ケティオス・リエンテ。まさか護衛の運転手までやってるとはな。……あの人、相当“切れる”よ」
「……そうなんだ」
ノートの線を見る。
胸の奥に、説明できない違和感が広がる。
線はドローンの軌跡と重なりながら、ひとつの形を作り始めていた。
――囲んでいる。
偶然じゃない。
「これ……タシト隊長を中心に、包囲してる……?」
ユウナギは唇を噛む。
不安が、確信に変わりかけていた。
彼にカナタを任せていていいのか。
ユウナギは顔を上げる。
「ねえ。今日……シャドのお兄さんに会わせてくれない?」
(第四十八章・了)
ほんの小さな違和感が、
やがて戻れないほどの事実へと繋がることがある。
誰かが気づき、
誰かが動き出した瞬間から、
世界はもう“元の形”ではいられない。
それでもまだ、
その中心にいる人物が誰なのかは、
誰も知らないまま――
静かに、包囲は進んでいる。




