家族
誰かに必要とされること。
誰かを守りたいと思うこと。
それを、家族と呼ぶのかもしれない。
けれど――
もし家族に拒絶されたとしたら、
人はどこへ帰ればいいのだろう。
「大丈夫か?」
プラス先生がカナタの肩にそっと手を置いた。
「あ、はい」
カナタは、ずっと下を向いたままだった。
「検査は無事終わりました」検査員が無機質にそう伝えると、静かに去っていった。
エントランスを抜け、二人は無言のまま歩いた。
その先に、ケティオスが立っていた。
「お迎えきてるぞ、カナタ」
「……先生」
「どうした?」
「私、……」
カナタの手は、小さく震えていた。
「なんでもありません」
「何でもないわけない。このままお前を行かせるわけにはいかない」
「私、……」
そこで言葉が途切れた。
足が前に進まない。
「私、……一体誰なんですか?」
「え?」
「……身体に力が入らない」カナタは、そう言うとよろけた。すかさずプラス先生が支える。
その様子を見て、ケティオスが静かに近づいてきた。
「プラス先生、この後はわたくしの方で」
「ダメだ、彼女は精神的に参っている。何故だかわからんがこのまま行かせるわけにはいかない」
「タシト隊長の命令です」
「だとしてもだ」
「すみません、ケティオスさん。先生と少し話をしても良いですか?」カナタは声を振り絞って伝えた。
噴水のある、緑の多い公園だった。
人影はまばらで、静かだった。
ときおり、暖かな風だけが吹き抜けていく。
二人はベンチに座った。
「先生……私。お父さんだと思っていた人がお父さんじゃなかったんです」
「え?」
「確かにアレイシア研究所に、知っている人がいました。でも彼は私の事を知らないと言った」
「……」
「しかも汚いと。私の事を」
「汚い?」
「私は、何かしたんでしょうか?全く記憶がないんです。母の死に何か関与してるんでしょうか」カナタは震えていた。
「カナタは、カナタだ。
きっと何か理由があるかもしれない。真実がわかるまで自分を責めない方がいい。彼の方が記憶がないのかもしれないし、
ただ、そういう気質の人だっただけかもしれないだろ?」
カナタは、プラス先生を見た。
「先生って、……探偵みたいですね」
「探偵?……何でわかった?」先生は微笑んだ。
「今日は、ご同行ありがとうございました」
カナタも微笑み返した。
けれど、それは自然な笑顔ではなかったかもしれない。
「なぁ、カナタ。タシト隊長は優しい?」
プラス先生は、別れ際聞いてきた。
「よくわかりません」
「そうなの?」
「でも、私を何かから守ろうとしてくれているのかもしれません」
「へぇ、家族になる人だもんな。あまり、張り切るなよ!」そう言ってプラス先生は、いつもの先生に口調に戻って帰って行った。
ケティオスの車の中。
「……家族?」
カナタは、ふと不思議な感覚になった。
一年間の婚約者生活。
それは、家族になるということなのだろうか。
――タシトは言った。
「……もし、ユウナギがこの話を外に漏らしたら、
彼は“只では済まない”。そういう立場にいる」
――
これは、脅し?
それとも警告?
一体、家族って何なのだろう。
ユウナギの家族のことを、そういえば何も知らない。
記憶が消えた八歳から、ずっと一緒にいるのに。
そんなことって、あるのだろうか。
今はもう、十六歳なのに。
カナタは、ユウナギの事を思った。
そして、タシトの事も思った。タシト隊長にも、家族がいるのだろうか。
いたらミラみたいな妹がいたりして、怖い兄だと敬遠されてたりするのかな。
そう思いながら、車内でうとうとしていた。
「……お父さん、私ね。
もしお父さんが、私のことを忘れてしまっていても、
私は怒らないから。
だから、安心してね」
そう呟くと、眠りに落ちた。
(第四十二章・了)




